マゼール指揮クリーヴランド管弦楽団マゼールの第9は、すみずみまで精緻に磨きあげられた演奏。そのうえ気合いがじゅうぶんなことは、冒頭から伝わってくる。
この曲の演奏でよく聴かれる重厚さを丁寧に抑えて、明晰さを際立たせている。弦の刻みがハッキリとしているところ、そしてフルートとクラリネットを前面に浮き立たせたところ、ことにファゴットがこんなに聞こえる演奏はそうないだろう。
2楽章もいい。粒だつティンパニといきり立つヴァイオリンのピチカートがはち切れんばかりにいきいきしている。広がりと深さをもつ残響が素晴らしい。
3楽章も細やかだ。弦の動きが俊敏。そのうえで踊る木管の存在感は大きいし、ここでもフルートは冴えている。
演奏は終楽章に入ってますますテンションは上がる。4人の歌手による歌は、浮世の雑事からすっかり解放されたように元気いっぱい。ここで運動会が繰り広げられているかのよう。声は大きくハッキリしていて影がなく、すみずみまで歌い切ったところはスポーツのようでもある。ことにタルヴェラは雄弁。
合唱はやや薄いが、ここも息が切れるほどまで歌い切っているところは痛快。この曲の祝祭的な雰囲気を前面に押し出している。
クリーブランドの技量の高さは、いまさらなにかを付け加えるまでもない。ラストで飛び散るピッコロの軽やかさは証のひとつ。
このオケに関しては、マゼールやドホナーニを飛び越えてセルの評判ばかりがいつも高いが、この第9の演奏はマゼールのほうを気に入った。名演である。
ところで、「ベートーヴェン」「第九」「マゼール」でググると、インマゼールのCDがトップにきたのでずっこけた。この演奏の知名度とSEOは比例しているようだ。いやはやなんとも。
ルチア・ポップ(S)
エレナ・オブラスツォワ(M)
ジョン・ヴィッカース(T)
マルッティ・タルヴェラ(B)
クリーヴランド管弦楽団&合唱団
1978年10月13-15日、クリーブランド、メイソニック・オーディトリアムでの録音。
どこに呑みに行くか検討中。
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ご指摘のクリーブランドとの幻想は聴きました。CBSとテラークの2種、いずれもイマひとつですね。同じベルリオーズなら「ハロルド」は鮮烈な名演奏なのに。ムラがあります。
「レクイエム」LP時代から気にしてはいましたが、まだ聴いていません。決定盤とのご評価、聴いてみたいものです。
>「一度は聴く価値のある箱庭的な現代演奏」
なるほど、この第九についていえば、スケールの広がりよりもディテイルの掘り下げにこだわっているところから、箱庭的といえるかもしれません。