シューベルト「後期ピアノソナタ」 レイフ・オヴェ・アンスネス(Pf)曽野綾子の「非常識家族」を読む。
小説の形をとっているが、ストーリーはない。三世帯家族とそれを取り巻く親戚による会話で成り立っている。小説の形式を借りた筆者の独白作品と言えると思う。
登場人物のセリフを借りて世間にモノ申す。電車で化粧をする女、股引きのようなレギンスを好んで履く女、病院でたむろする老人、振り込め詐欺にあう老人、そして老婆が外出するときに必ずリュックを背負い帽子を被る謎。
矛先はこれだけではないが、全体的に女と老人が標的になるところが多いようだ。これはまさに今の著者である。自嘲ではない。こうなってはいかんという矜持とみた。
晩飯のあとにだらだらと呑み続け、いい加減酔っ払ってきたし明日も早いからなんか1曲聴いて寝るか、というときに最近よくとりだすのがアンスネスのシューベルト。ことに、20番の3,4楽章が気に入っている。酔い心地と、ピアノの甘さ加減とが絶妙に合うのだ。1回聴くと、また繰り返し聴くハメになり寝不足。
3楽章のトリッキーな主題の鮮烈さと、4楽章のメロディーの儚さが、夢に陥る前奏曲としていい按配なのだ。まったくもってこの世のものとは思えない、とまで言ってしまうのはこちらが酔っ払いだから。
ところで、この4楽章のメロディーはシューベルトの4番ソナタのパクリである。「鱒」にしても「ロザムンデ」にしても、この作曲家のパクリはまったくもって挑戦的なほどに露骨であるが、自作だから文句は言われないし、むしろこういうステキなメロディーならば何度登場したって大歓迎で焼酎ロックだ。
異なるのは、淡々とした4番に比べてこちらは変化が大きいところ。どちらも捨てがたい。
アンスネスのニュートラルな音が沁み渡る。
2001年8月、ロンドン、イア・スタジオ・リンドハースト・ホールでの録音。
PR