ベルリン弦楽四重奏団の演奏で、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲10番「ハープ」を聴く(1975年5月、ドレスデン、ルカ教会での録音)。
「ハープ」という曲は、ベートーヴェン中期の作品なかで、もっともウィットがきいた音楽のひとつではないかと思う。
「ラズモフスキー」ほどには自由気ままではなく、「セリオーソ」ほどには堅苦しくない。
これは中年ベートーヴェンが描いた、率直な作品。
兼好も云っている「何事も、珍しき事を求め、異説を好むは、浅才の人の必ずある事なり」。
ベルリン四重奏団の演奏は、いい。これ以上、なにを望んでいいのかわからないほど。
アンサンブルの緊密さといい、音色のコクといい、テンポの加減といい、すっと腑に落ちる。
とりわけ、ズスケのヴァイオリン・ソロはヤバい。1楽章の主題の後半、徐々に上昇していって、急に低音に落ちるところの按配とポルタメントの見事さは、なににも替えがたい。瞬間の美。音楽のすべての魅力が凝縮されているかのよう。
この人はマジで、天才だと思う。
カール・ズスケ(第1ヴァイオリン)
クラウス・ペータース(第2ヴァイオリン)
カール・ハインツ・ドムス(ヴィオラ)
マティアス・プフェンダー(チェロ)
春。
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