ベートーヴェン ピアノ・ソナタ第30番 ソロモン(Pf)葬儀屋が盆休みということで2日先延ばしになった義父の葬儀が終わる。故郷の陸前高田から多くの親戚が来て、賑やかなものだった。「親が流された」「実家が全壊」ということを訥々と語る彼らの殊勝さには言葉がなかったナ。
ところで、義父が生まれた1933年に昭和三陸地震が起こっている。津波を見に行った彼の父親は波にさらわれて、そのまま帰らぬ人となった。それから78年の時を経て、今回の震災の年に自身が亡くなったことになる。
因縁、というほどのことではないかもしれないが、なにか感慨深い。
ソロモンのベートーヴェンを聴くのは久しぶり。
古代の王様を想起させる名前からして、重厚長大、権謀術数、海千山千のピアノを聴かせるのじゃないかと昔はイメージしたものだが、ベートーヴェンの後期のソナタを聴く限り、軽やかで繊細な演奏をする。その印象は、29番や32番といった堅固な曲を聴くよりも、30番のほうがよりハッキリするようだ。
この曲の演奏でいいと思ったのは、ひとつの旋律というか、段落が一区切りつくところの仕上げ。うまく言えないが、文章であれば「。」の直前の、小さい終結部みたいな箇所である。
1楽章は、短いアルペジオで「仕上げる」ところがいくつかあって、そこが絶妙なのである。ひとつひとつの音はキラリと光っていて、テンポと強さが程良い。休符の長さも丁度よい。それぞれの仕上げを丁寧に弾いているから、そのあとに続く段落も自然に流れるし、適度な陰影をつけることができているのだと思う。
趣き深い演奏。
1951年6月、ロンドン、アビー・ロード・スタジオでの録音
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