ジュリアード弦楽四重奏団の演奏で、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲14番を聴く(1982年、ワシントン、アメリカ合衆国国会図書館クーリッジ・ホールでのライヴ録音)。
この演奏は、同じディスクに収録されている12番よりも完成度が高いと思う。
ロバート・マンを始め、それぞれの奏者がじゅうぶんに押し出しを利かせているので、各楽器がほろほろとはっきり聴きとることができる。クロスニックのチェロの存在感が存外大きい。
1楽章は全体の序奏のような佇まいの音楽、それを彼らはしっとりと歌い上げる。
コミカルな味わいのある2楽章においても彼らのアンサンブルは堅牢。ホールの残響が少ないと、音程のほんの少しのズレが明確にあらわれてしまうものだが、まったくそのようなことはない。
3楽章は嵐の前のような雰囲気、強く描かれた点描画のような音楽。
4楽章のアンダンテはこの曲の中で最長の楽章、この演奏では14分半かけている。晩年のベートーヴェンの諦念。暗すぎず明るすぎず。ほんわかと豊かな心持ちは、健気でもある。そんな曲を、実にしみじみと味わわせてくれる、これは演奏。
5楽章は、この世でもっとも速い音楽のひとつ。本演奏は、5分27秒。嵐が駆け抜ける。
6楽章はアダージョ、間奏曲的な位置づけと考えられる。短いが、悲痛。
7楽章の第1主題は、ベートーヴェンが作った、おそらく最も堅苦しくてカッコいいメロディーだと思う。彼の音楽の、ひとつの集大成。真正面から毅然と立ちむかうジュリアードの演奏は、剛直。
ロバート・マン(第1ヴァイオリン)
アール・カーリス(第2ヴァイオリン)
サミュエル・ローズ(ヴィオラ)
ジョエル・クロスニック(チェロ)
屋根の上のパーティ。
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