ベートーヴェン ヴァイオリン協奏曲 シェリング(Vn) イッセルシュテット指揮 ロンドン交響楽団小林秀雄「人生の鍛錬」。小林の様々な作品から作品順に選りすぐった言葉の数々。
私の受験の頃は、小林の評論が必ずといっていいほど入試に出ていたから、当時はわけもわからないままいやいや読んでいたものだが、皮肉にもそういった時期を過ぎるや否や、読み出したものだった。
初期の作品は、切れ味の鋭い文章が直截に心に切り込んでくる。
「君は解るか、余計者もこの世に断じて生きねばならぬ」(Xへの手紙)なんて、ドキドキする。
後期の作品は、難解なものが多い。繰り返し読んでも良くわかないので、あきらめてビールなぞ飲み始めてしまうのだ。
ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲は、長さといいスケールの大きさといい構成の堅牢さといい、近代クラシック音楽300年のなかでも最大級の協奏曲のひとつだろう。
ただ、いささか退屈だ。
第1楽章はシェリングの演奏だと25分かかるが、2つの素朴なメロディーが何度も何度も、同じように繰り返される。この長さは、シューベルトのピアノソナタに通じるところがあるような気がする。特に華やかでもない、そこらへんにころがっているようなメロディーが、これでもかというくらいに反復される。
まったく退屈ではあるけれど、この種の音楽は嫌いではない。むしろいい演奏ならばワインを片手に一晩中つきあっても良いとさえ思うのだが、このシェリング盤は長大さに耐えうる演奏だ。
とりたててどこがいいということもないのだが、全てがあるべき姿に収まっているという感じで、いたって中庸なもの。
球種でいえば、ストレートが主体で、たまにカーブを織り交ぜるくらいの、今では珍しい正攻法のピッチングだ。
イッセルシュテットの指揮もヴァイオリンと同様、なんの変哲もないがひとつひとつのフレーズが自然で力強い。
実直としか言いようのない演奏だけど、聴いているとじわじわと迫り来る何かがある、スゴイ演奏。
カデンツァはヨアヒムのもの。PR
無題 - rudolf2006
Re:rudolf2006さん、こんばんは。 - 管理人:芳野達司
コメント、ありがとうございます。
小林の評論ですが、若い頃に読んだような感慨は、今は薄れているような気がしますが、歳をとってようやくわかるところもあるかと思って、読み返そうかと思います。でも、作品によっては、私には難解ですねー。
>微妙に色合いが変わっていくのが、妙味とも言えるかもしれませんね。
まったく仰るとおりで、一見みんな同じ旋律なのですが、繰り返すごとに微妙に違うのですよね。演奏者の裁量もあるのでしょうが、そのあたりがベートーヴェンを聴く醍醐味です。
シェリングの演奏は極めてまっとうでケレン味のないもので、ヴァイオリン協奏曲の王者にふさわしい弾きぶりでありました。
2007.11.11 22:42
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