ゲヴァントハウス弦楽四重奏団の演奏で、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲15番を聴きました(1998年2月の録音)。
ベートーヴェンの弦楽四重奏のなかで、15番はもっとも好きな曲のひとつです。3楽章はもちろんのこと、1楽章、5楽章もたまらなくいい。
ゲヴァントハウスの演奏は、この全集のなかでも、ひときわ印象的な演奏です。
1楽章は、ゆらゆらとした入り方。曲線的であり、神妙な雰囲気を感じます。主部になっても、あまり速くならない。強弱にしろ、テンポにしろ、細部の味付けを濃厚につけている。ことごとく、心に沁みるのです。
2楽章アレグロも、わりとゆったりとしたテンポ。もともと不思議な味わいのある音楽であるけれど、ゲヴァントハウスによる演奏はトリオを含めて、幽玄といってもいいくらい幻想的。
3楽章は「リディア旋法による、病より癒えたる者の神への聖なる感謝の歌」と題されたアダージョ。ベートーヴェンが腸カタルを克服した喜びをあらわした曲とされています。
ときに彼は、54歳。私とあまり変わりません。音楽というものは、これほどの高みにいきつくものなのか。毎度のように、それを思い知らされます。
ゲヴァントハウスの柔らかな響きが、言いようもなく素晴らしい。
4楽章はふっ切れたように快活。そよ風のように走り去っていく。
5楽章は、エルベンのヴァイオリンが高潔。強くもなく弱くもなく、速くもなく遅くもなくちょうどいい塩梅、格調が高いのです。かすかなポルタメントが、いいスパイスになっています。
彼らは涙を浮かべながら弾いていたのではないか、そんな夢想を抱いてしまう演奏です。
フランク・ミヒャエル・エルベン(ヴァイオリン1)
コンラート・ズスケ(ヴァイオリン2)
フォルカー・メッツ(ヴィオラ)
ユルンヤーコプ・ティム(チェロ)
パースのビッグムーン。
PR