ザンデルリンクの指揮でベートーヴェンの「田園」交響曲を聴く。
とてもとても遅い。全曲で47分以上かけているから、最長クラスだ。
その遅さに最初はとまどうけれども、やがて慣れてくる。慣れてくると、このテンポしかないという錯覚に陥る。
遅いから、深みがある。ひとつひとつの音に対して、慎重に丁寧に進める。
ゴツゴツとして重厚な弦もいいし、その上でひらひらと飛翔する木管群が素敵だ。ファゴット、クラリネット、フルート。煌めいていて軽やか。木の香りが濃厚。
2楽章でヴァイオリンのトリルに乗って現れるクラリネットの、なんと鄙びていることか。フルートとオーボエの掛け合いは素朴で美しい。
スケルツォは遅いけれども重くない。ここでも木管楽器の軽やかな飛翔が素晴らしい。
嵐の場面ではトランペットの咆哮が印象的。出だしはフォルテッシモ、すぐさま弱くするやりかたはムラヴィンスキーに似ている。
終楽章もしっかりとした足取りで進む。優しくて、力強い。途中で弦のアンサンブルが乱れるが、それすら味わい深い。最後は悠々と終わる。
残響豊かな録音もいい。観客の息詰める雰囲気が漂う。
19世紀初頭のドイツの田園はこんな風景だったのだなあと、時空を超えて想いを馳せずにいられない。
クルト・ザンデルリンク指揮 ベルリン・ドイツ交響楽団
1991年12月2日、ベルリン、シャウシュピールハウスでのライヴ録音。
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