高橋秀実の「結論はまた来週」を読む。
これはR25に連載していたコラムを単行本にしたもの。若者をターゲットにしたからか、この著者にしては珍しくやや上から目線になっている。とはいえ、大方の文章家に比べれば謙虚なのだが。
相変わらずゆるゆるとした発想と文章がいい。
ときは、金融危機の頃。著者は経済アナリストに尋ねる。一体どうすればいいのかと。答えは、安定企業の株を買うこと。今が底値なので買い時だという。著者は、そんなことはすでに大勢がやっているし、だいいち自分には株を買う余裕などない、と著者はアナリストを一喝する。そして、おもむろにカメの生活に思いを馳せる。
カメは2億3000万年前からずっと生き残っている。1億円ならぬ1億年単位で考えると、彼らこそが生存競争の勝者だという。
カメから学ぶべき点は、学習しないことである。
「彼らはエサ場を見つけても、再びそこを訪れるとは限らない。目の前にエサがあれば食べるし、なければ食べない。一見すると「アホ」のようなのだが、カメを捕獲する立場からすると、行き先の見当がつかず、なかなか捕えることができないのだ」。
素晴らしい。それに対して、人間は群れて生活するから脳が異常に肥大化している。ほとんどの能力は、腹の探り合いに費やされる。なんだか虚しくなってくる。
これからの時代は、カメであろう。
チェリビダッケの指揮でシューマンの「ライン」交響曲を聴く。
聴く前から長い演奏だろうと思っていたが、案の定40分近くかけている。それにしては、遅さはあまり感じない。
感じるとすれば3楽章なのだが、ここが一番の聴きどころだと思う。
いつも聴くこの曲は牧歌的でほのぼのしたものであるが、この演奏では一見明るい色調のなかに悪魔の囁きのような模様が散りばめられていて、ゾッとする。シューマンの狂気が見え隠れしている。
4楽章もいい。どっしりしていて、威厳がたっぷり。弦の厚い響きが濃厚。楽譜に記載している「壮麗に」を見事にあらわしている。
終楽章も悠揚迫らざる足取り。スケールが大きく、かつ精密。
セルジュ・チェリビダッケ指揮 ミュンヘン・フィルハーモニカー
1988年4月、ミュンヘン、ガスタイク・ザールでのライヴ録音。
キングスパーク内。
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