エマーソン弦楽四重奏団の演奏で、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲15番を聴く(1994年3月、ニューヨーク、アメリカ文芸アカデミーでの録音)。
ベートーヴェンの弦楽四重奏曲は、16曲すべて素晴らしいものだ。人類の至宝というに異論はない。
なかでは、もっとも好きなのは15番、一番エライのは14番、というのがいまの印象。
15番、この尊敬すべき、そして愛らしい音楽を、エマーソンの4人は、じつに丁寧に、思い入れ込めて演奏している。
1楽章は、とても力強い。そして陰影にもこと欠かない。ヴァイオリンの控え目なポルタメントが切なくもある。
2楽章は、不思議な膨らみのある音楽。手を出せば、もうすぐ届きそうな憧れ。聴けば畏敬の念を忘れないではいられないものの、そんな身近な音楽でもある。
3楽章は、「リディア旋法による、病より癒えたる者の神への聖なる感謝の歌」。ベートーヴェンが腸チフスから快癒した頃の、喜びを歌ったもの。
この、世にも崇高なメロディーを、エマーソンの4人はじっくりと、荘重に、親しみをこめて、たっぷりとした力を湛えて演奏する。それはふくよかでありつつ、とても優しい目線だ。
第1ヴァイオリンが朗々と歌うところ、そして第2ヴァイオリンのトリルの優美さが堪らない。
このまま生きていていいのだ、ということを諭されるよう。
4楽章は間奏曲というべきもの。快活。
5楽章はロンド。前の楽章から、怒涛のように続けられる。神秘的であり崇高なメロディー。ヴァイオリンの叫びとチェロの抑制された音のコントラストが素晴らしい。エマーソンは、複雑な場面においても、明瞭な響きを聴かせてくれる。
フィリップ・セッツアー(ヴァイオリン1)
ユージン・ドラッカー(ヴァイオリン2)
ローレンス・ダットン(ヴィオラ)
デヴィッド・フィンケル(チェロ)
パースのビッグムーン。
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