イストミンのピアノ、ローズのチェロ、スターンのヴァイオリン、オーマンディ指揮フィラデルフィア管弦楽団の演奏で、ベートーヴェンのトリプル・コンチェルトを聴く
(1964年4月、フィラデルフィア、タウン・ホールでの録音)。
昔、どこかの音楽評論家が、ベートーヴェンの数少ない駄作はトリプル・コンチェルトとウェリントンの勝利だ、というようなことを云ったのを覚えている。
ウェリントンはともかく、トリプル・コンチェルトは、編成がかなり珍しいものだし、作品そのものにも大きな魅力がある。メロディーはそこそこ美しいし、構成の堅固さは手練のものだし、3つの楽器の生かし方も不足はない。
駄作とは思えないが、どうだろうか。
1楽章は、低弦による雄大な主題で始まる。フィラデルフィアの息の深いうねりが素晴らしく、大曲の威容がある。ソロの最初はチェロ。ローズの音色は相変わらず肌理が細かい。次にヴァイオリンが加わり、やがてピアノ。イストミンの明晰なタッチはいつ聴いても気持ちがいい。
以降、ピアノ・トリオが軸となり、オーケストラは伴奏に徹する。フィナーレの盛り上がりは凄い。
2楽章はラルゴ、短い。ここも出だしはチェロ、たっぷりとした響き。ピアノのオブリガートでふたつの弦楽器が鳴るところは、せつないほどに麗しい。
アタッカで3楽章のロンドへ。やはりチェロで始まる。オーケストラは、ここにきて見せ場が来たという感じ、大きな広がりがあり雄弁。
5:20あたりからの、3人のソリストによる腕比べ大会はたいした迫力。ここらあたりから音楽がぐんぐんと推進力を増していき、終結まで一気呵成に突き進む。
春。
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