アマデウス四重奏団の演奏で、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲10番「ハープ」を聴く
(1960年5-6月、ハノーファー、ベートーヴェン・ザールでの録音)。
「ハープ」という曲は、ベートーヴェンの中期の弦楽四重奏曲のなかで、もっともコケティッシュな曲だと思う。
楽想はとても豊かであり、親しみやすく、そして飽きない、「ラズモフスキー」ほど力んでいないし、後期のような仄めかしはない。
単体で聴いたら、ベートーヴェンの音楽のなかで上位に食い込むのではないか。そんな、完成度の高さを感じる。
アマデウスSQはそんなこの音楽を、じつに率直に弾き切っている。ケレンや、衒いはない。楽譜を読みながら聴いているわけではないが、そんな印象を受ける。
ゴチャゴチャしている箇所はそれなりに、情緒たっぷりなところはむしろ端正。
響きは、いつも通りに、しっかりとゴツゴツしていて、木目の香りが濃い。とくに2楽章のアダージョ、密度のある、創意工夫に溢れた音楽には、匂い立つような芳香も漂っていて、むせるよう。そして、スプーンひと匙のせつなさ。
3,4楽章は実に快活。少々、荒々しいアマデウスがまたいい。はち切れんばかりの精気が充満している。
この頃は、もうベートーヴェンの耳は聴こえなくなっていたのに。
ノーバート・ブレイニン(第1vn)
ジークムント・ニッセル(第2vn)
ピーター・シドロフ(va)
マーティン・ロヴェット(vc)
春。
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