ユーリ・テミルカーノフ指揮サンクトペテルブルグ・フィルハーモニー交響楽団の演奏会に行く(2016年6月5日、文京シビック・ホール)。
R・コルサコフ 「シェエラザード」
チャイコフスキー 交響曲6番「悲愴」
実はロシアのオーケストラを聴くのは初めて。かれらは来日公演にはいつも決まってこのように、チャイコフスキーやショスタコーヴィチの交響曲を並べてくる。新味がないから、なんとはなしに避けていた。
今回は、去年に読響を振ったテミルカーノフのマーラー3番がよかったということと、文京区民だから行かなきゃという(割引があるわけではないけど、場所代のせいかチケットは比較的安価)思いがあって足を運ぶことにした。
編成はヴァイオリンの対抗配置。1,2ヴァイオリンがそれぞれ6プルト、コントラバスは9挺。
「シェエラザード」は、呼吸が深くて、なめらかな演奏。
ひとつひとつのフレーズは微妙にテンポを変化させて濃い味わいがあった。ロシアのオーケストラは総じて金管楽器が強い、との評価があるが、まったくそんなことはなく、他の楽器との調和がとれていた。
抑揚のたっぷりとしたテミルカーノフのリードは、今までに聴いたことのないようなユニークなものだった。
そしてとうとう、音楽は4楽章の金管楽器と小太鼓の咆哮で爆発。泣きそうになった。
ヴァイオリンソロは出だし少し乱れたが、そのあとは安定していた。通してみれば、素晴らしい出来。
この日の白眉だった。
「悲愴」は1楽章の第2主題をとてもゆっくりと歌わせた。4楽章との連関が、明確に示された。
2楽章は軽快なテンポで、うららかな冬の朝という感じ。それが中間部では一転、ティンパニの連打とホルンの信号がじわじわと続き、あたかも地獄の淵にいるように滅入った。この明暗のコントラストに、軽いショックを受けないわけにいかなかった。
3楽章は金管楽器と打楽器が好調。迫力のあるマーチであったが、好みではもう少しキレがほしかった。
終楽章は大編成の弦楽器群が大泣き。サンクトペテルブルクの若干くすんだ弦が、甘すぎない適度な感傷を湛えていてよかったと感じた。
生活することは大変だったろうチャイコフスキー。世を儚んで儚んで、嘆いて嘆いて書いた曲。
そのエッセンスは畢竟、1楽章の第2主題と、終楽章の第2主題に集約されていることを、改めて思い知らされた。
アンコールはなし。団員が引っ込んだあとも盛大な拍手は続き、テミルカーノフは2回呼び出された。
このオーケストラを聴いて、いわゆる「ロシア的」という形容詞は思い浮かばなかった。全体的にとてもニュートラルな音色。
国際化の波は、フランスやドイツだけではなく、ロシアにも波及しているように思える。
春。
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