三浦しをんの「舟を編む」を読む。
これは、新しい辞書作りに取り組む出版者の面々の奮闘を描いた長編小説。汗あり恋あり涙ありと盛りだくさんの作品である。
アクの強い登場人物といい、ストーリーの簡易さ・凡庸さといい、あたかもテレビ化、あるいは映画化(これは既に実現されているらしい)を狙ったかのような話だ。
だから、わかりやすくて読みやすいのだが、奥ゆきに欠ける。いわゆる月9とか木9とか、ああいった連続ドラマのような薄い味わい。すべての物事は粛々と前進し、だいたい思ったところに着地。
暇つぶしではなく、新しいものを発見したり驚きを感じたいために本を読むならば、この本はふさわしくない。
小澤指揮ボストン交響楽団・他の演奏で、ベルリオーズの「ファウストの劫罰」を聴く。
これはなかなか元気な演奏。DGの「ファウストの劫罰」といえば1960年代の、マルケヴィッチ/ラムルー管弦楽団の、他を寄せつけない隔絶した名演奏がある。これはおそらくそれ以来の録音だと思うので、やりづらいところもあったに違いない。あの演奏ほど飛び抜けたところはないものの、メリハリの利いた活発な演奏となっている。
酔っ払いたちのアーメン合唱が、くだけていていい。マルケヴィッチを踏襲したかのよう。
マティスのマルグリートは可憐ななかにほのかな色香がある。3部のアリアは素晴らしい。わずかに舌っ足らずなところがまた可愛く、後発のシュターデ(ショルティ盤)を思わせる。
マッキンタイアが歌うメフィストフェレスのセレナーデは恰幅がよい。声そのものも艶があり、若々しくていい。悪魔的というより健康的ではある。
バロウズのファウストは端正。フランス語の質感はやや薄いか。
地獄落ちの場面の緊張感はいくぶん弱い。これから地獄に向かうという緊迫感がいまひとつ伝わってこない。女声合唱の叫びは楽譜通りにやっているのかもしれないが、変。不自然に感じる。ただ、地獄の首都の前半はまずまず迫力がある。
小澤征爾のキャリアは今のところ、60年代のトロント交響楽団時代から、DGでベルリオーズの作品を録音していた頃あたりまでが最盛期になるように思うがどうだろう? これを聴いて改めて思う。
ファウスト:スチュアート・バロウズ(テノール)
メフィストフェレス:ドナルド・マッキンタイア(バス)
マルグリート:エディット・マティス(ソプラノ)
ブランデル:トマス・ポール(バス)
「地上のエピローグ」のバス・ソロ:トマス・ポール
「天国にて」のソプラノ・ソロ:ジュディス・ディキスン
タングルウッド音楽祭合唱団
ボストン少年合唱団
1973年10月、ボストン、シンフォニー・ホールでの録音。
すがすがしい。
在庫がなく、ご迷惑をおかけします。
5月下旬に重版できる予定です。
「ぶらあぼ」4月号に掲載されました!PR