マゼール指揮クリーヴランド管弦楽団・他の演奏で、ガーシュインの「ポーギーとベス」を聴く。
この曲は、ガーシュイン晩年の1935年に作曲された。舞台は1920年頃のアメリカ南部、アフリカ系アメリカ人の恋愛や犯罪を描いている。演奏時間は3時間ほど。
これがミュージカルの先駆的な作品であることは、言われなくとも冒頭の数分を聴けばなんとなくわかる。オーケストラは通常の弦楽5部に木管楽器・金管楽器、それに多数の打楽器からなる、と思われる。
この録音は「ポーギーとベス」の世界初の完全全曲版であるらしい。それに加え、ガーシュインはこの曲を「黒人以外の歌手に歌わせてはならない」と指示したとのことで、そういう意味でもこの演奏は、作曲家の思いを忠実に守った試みだと言えるだろう。
演奏について細かいことは書けない。なにしろ初めて聴く曲なので、比較対象がない。
ただ、レベルの高い演奏であろうことは感じられる。まず、オーケストラはこの時期のマゼールなので素晴らしい。個々の技術は高いし、とても活気に満ちている。ジャズのイディオムが盛りだくさんな音楽であるが、とくにその色が濃いクラリネット、サキソフォン、ピアノ、弦楽器は難なくこなしていて違和感がない。
歌手もいい。英語であるし、歌いまわしはもうほぼミュージカルなので気楽に聴ける。ジェシー・ノーマンで昔によく聴いていた黒人霊歌、ああいう歌もたくさん出てくる。対訳を見なくとも、それぞれの歌手の声の違いが明快にわかるくらい、個性がはっきりしている。みんな、なんというか夢と野心に彩られた生命力に溢れている。
有名な「サマー・タイム」はバーバラ・ヘンドリクスが歌っている。彼女がオペラを始めた頃のものだ。
ウィラード・ホワイトは1990年代のサイモン・ラトル盤でもこの役を歌っている。一世一代のハマリ役と言えるかも。とても力強く、野趣がたっぷりのバリトンだ。
合唱団はさすがに全員黒人ではなかろうが、ちょっと荒っぽく土臭い雰囲気がよく出ていて楽しい。
マゼールは当時、デッカの花形スターのひとりであったわけだが、これは彼の希望で実現したのだろうか。たいした仕事である。
ウィラード・ホワイト(ポーギー/Br)
レオーナ・ミッチェル(ベス/S)
マケンリー・ボートライト(クラウン/Br)
フローレンス・クィヴァー(セリーナ/S)
バーバラ・ヘンドリックス(クララ/S)
バーバラ・コンラッド(マリア/A)
アーサー・トンプソン(ジェイク/Br)
フランソワ・クレモン(スポーティング・ライフ/T)
クリーヴランド合唱団
1975年8月、クリーヴランド、メイソニック・オーディトリアムでの録音。
すがすがしい。
在庫がなく、ご迷惑をおかけします。
5月下旬に重版できる予定です。
「ぶらあぼ」4月号に掲載されました!PR