ベルリオーズ:序曲集 C・デイヴィス指揮 ドレスデン・シュターツカペレ芥川龍之介の「或る阿呆の一生」を読む。
これは、作者が20歳のときから死ぬまでの半生を断片的に描いた作品。51の章から成るが、それぞれに論理的な脈絡はない。だから形式としては、小説というよりも独白といったほうが近い。
内容はひたすら厭世的であり、ああ、この人は生きていることそのものがツラいのだなと、しみじみ思う。その考え方や行動に、共感できてしまう。
だから、これはとても危険な作品なのだけど、ある種の抗しがたい魅力を感じないわけにいかないのだ。
コリン・デイヴィスのベルリオーズを聴く。
序曲「宗教裁判官」
序曲「ウェーヴァリー」
序曲「リア王」
序曲「ローマの謝肉祭」
歌劇「ベアトリスとベネディクト」序曲
序曲「海賊」
歌劇「ベンヴェヌート・チェッリーニ」序曲
ドレスデン・シュターツカペレによるベルリオーズは比較的珍しいと思うが、このオケの長所を満遍なく発揮させた演奏となっている。
コクのある弦の響き、柔らかい金管楽器の音色が、残響のたっぷりした録音と相まって、とても耳触りがよい。
それは1曲目の「宗教裁判官」から顕著。ベルリオーズのスペシャリストによる手にかかり、多彩な音響美を堪能させてくれる。
全体を通して、どっしりとした厚みがあって、優美なベルリオーズ。ことさらに管弦楽美をあらわそうとはしない、落ち着いたオーソドックスなスタイル。デイヴィスの余裕を感じることのできるディスクだ。
「ウェーヴァリー」と「リア王」は、録音もそう多くはないと思う。ことに「リア王」は変な曲だ。分裂している。名曲とは言い難いがたいだけに、なおさらこの名コンビによる貴重な演奏と言える。
1997年1月、ドレスデン、ルカ教会での録音。
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