ベルリオーズ 「レクイエム」 マゼール指揮クリーヴランド管弦楽団、他
「子供のときにあれほど弱かった人が、大人になってものすごく強くなるなどということがありうるのだろうか? じっさいには、たんに外見が変わったにすぎないのだ。進歩によって完成したものは、すべて、進歩によって滅びるのだ。弱かったものが絶対的に強くなるなどということは断じてありえない。≪彼は成長した、彼は変わったのだ≫というが、それは嘘だ。彼は昔の彼なのである。」
(パスカル「パンセ」断章88 鹿島茂訳)
マゼールのベルリオーズをLPで聴く。
端正でかつスケールの大きい演奏だ。
この時代のマゼールらしく、弦も管もキッチリと縦に揃えられていて、合奏の精度は極めて高い。「怒りの日」では8対のティンパニを始め、東西南北に配置されたブラスバンドがさく裂するが、全体の流れが自然なために、突出した感はなく、むしろこの大音響は必然だと思わされる。実際にそのように意図して作曲されたのだろう。
とりわけ、「サンクトゥス」の「ホザンナ」のフーガは感動的。男声合唱が力強いし、リーゲルの硬質な声がオケの音色に合っている。情に溺れることのない冷静な解釈であるが、それが純度の高い音楽となって耳にすんなりはいってくる。
解説によれば(あるいは世評によると)ベルリオーズはあまり熱心なカトリック信者ではないという説があるが、この音楽を聴く限り、それは誤解なのじゃないかと思う。
また録音もいい。この大編成の音楽で、音がビビるところがない。
三大レクイエムとして、モーツァルト、ヴェルディ、フォーレのそれがあげられることがある。しかし私はフォーレではなく、このベルリオーズを取りたい。完成度の高さも真摯さもこちらが上だと思う。
クリーヴランド合唱団
ロバート・ペイジ(合唱指揮)
ケネス・リーゲル(テノール)
1978年8月、クリーヴランド、メイソニック・スタジアムでの録音。
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