ベルリオーズ「幻想交響曲」 マルク・ミンコフスキ指揮マーラー室内管、ルーブル宮音楽隊丸谷才一の「猫のつもりが虎」を読む。
上質なウンチク話が17編に味わい深い和田誠の絵、一杯やったあとに寝床で読むヨロコビがある。
全体にホンワカムードだが、ときおり鋭い眼が光る。
「今の日本には、批評のまつたくない藝術がある。しかもそれはあらゆる藝術のなかで最も金のかかるもので、それが未曾有の盛況だし、たぶん全世界的にみても珍しいほどの殷賑ぶりではないか。それなのに批評がないのはまことに不思議な話だ。と言ふとき、わたしは建築批評の不在をなげいてゐるのだ。」
それを読んで思い出したのは、東京の音楽ホール。
ここ20年くらいの間に、芸術劇場やオーチャードホールやトリフォニーホールなどぞくぞくと音楽専用のホールができている。これらによって多くのコンサートを聴く機会が増え、とても重宝している。
でも不満なのは、ホールがビルの中に含まれていること。外からみるとホールなんだか事務所なんだか全然わからない。要するに味がない。
音響面では劣るかもしれないが、その点で渋谷のNHKや上野の文化会館の佇まいのほうがしっくりくる。どうせ浮世の世界を楽しむのなら、見た目でも堪能したいものだ。
丸谷の話とはちょっと離れてしまった。
ミンコフスキの「幻想」は、手兵のルーブル宮音楽隊に加えてマーラー室内管を採用している。
古楽器と現代楽器とをミックスしているわけだが、実際に聴いたところは現代楽器のみを使用しているように感じる。
手兵のルーブル宮にやや色の異なるオケを増強した結果、違和感があるのではと邪推したが、分厚い響きを引き出すことができているし、アンサンブルはキッチリ整えられている。
この演奏の聴きどころは、1楽章の弱音器を用いた弦の美しさと、4楽章で妙にブカブカ主張するバスのトロンボーン。
ことに後者は部分的にユニークであるが、大勢を揺るがすほどの影響はない。要するに、それ以外の箇所については特に新味はない。
「幻想交響曲」は録音の数こそ多いものの、これといった演奏がとても少ない。これだけ手垢のついた曲だから、新味を出すのはいささかやっかいだろう。
決して悪い演奏ではないが「こうじゃなけりゃ!」といった要素は見当たらない。
古楽器演奏を得意とする指揮者がロマン派の曲を取り上げるとき、期待に反してつまらない場合があるが、この演奏もそれに当てはまる。
2002年12月、パリでの録音。
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