ベルリオーズ「幻想交響曲」 ミュンシュ指揮パリ管弦楽団正月の振り替え休日。椎名を片手にビールを飲む。この人のエッセイにはビールがじつによく登場する。朝の通勤電車のなかで読んだりすると、もうたまらん仕事なんていいやという気になってしまうところ。
イタリアのナストロ・アズーロ。
濃厚なホップの香り。
ミュンシュの「幻想」に、パリ管とのライヴが加わった。国立フランス視聴覚研究所から発掘されたもので、パリ管弦楽団の発足演奏会の実況録音である。いつもは1枚あたり1300円を超えるCDはめったに買わないのだが、どうしても聴きたくて買ってしまった。
いままでは、ミュンシュが指揮をした「幻想」ではボストン響との62年盤をよく聴いていた。激しくうごめく情念と、それを抑制しようとする理知的なものとのバランスが絶妙な演奏であった。それに対し、このパリ管とのライヴ演奏は、指揮者の激情がまるハダカで闊歩しているような演奏だ。
テンポは自在に収縮するが、それがちっとも不自然ではなく、むしろやられてみればこれしかないと思わせる説得力がある。
ミュンシュの根性に対しパリ管の意地が真っ向からぶつかり火花が飛び散る。いい勝負である。指揮者の燃え上がりはちょっと尋常ではないが、それについてゆくパリ管はいまにも血管が切れるのじゃないかと心配になる。こんなにやる気に満ちたパリ管は珍しいのではないだろうか。すべての楽器が生々しく息づいていて、聴いていてドキドキする。ホルンの軽やかで芳醇な響きは、音楽院時代の古き良き香りを濃厚に残したもの。
それにしてもすごい気合いである。70年代に共演したリヒテルが嘆いたやる気のない姿はここにはない。ヨーロッパのお偉方が顔を揃えた効果であろうか。
ラストは大爆発。聴き終わったあと帽子がどこにあるのかわからなかった、ってほどではないにしろ、この曲を聴いて感動したのはかなり久しぶりのこと。感受性が衰えつつある今日この頃においては希有なことなのである。
録音もリアルで素晴らしい。
1967年11月14日、パリ・シャンゼリゼ劇場でのライヴ録音。
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