ヘンデル「ヘラクレスの選択」 レッジャー指揮 アカデミー和田秀樹の「大人のための勉強法」を読む。
印象的だったのは、他者に頼ることの有効性についての記述。問題解決方法には大きく2通りあるという。ひとつは自分で判断する能力、もうひとつは人をうまく利用することである。勉強することにおいても、後者が有力なやりかたになりえる。
「資格試験や大学入試の受験勉強のようなきわめて個人的な能力を試されるようにみえる課題においても、他者を情報源とし、他者による精神的サポートを有用に利用できる人が、結果的には成功の確率が高くなる」
思いあたることはひとつやふたつではない。言われてみれば当たり前のことであるが、こういうところにも人の繋がりの大事さがある。嬉しさ半分鬱陶しさ半分。
「ヘラクレスの選択」は、ヘンデルがキャリアの後期にあたる1750年に作曲したオラトリオ。
青年期のヘラクレスが大人になるに当たり、2人の美女に誘われる。1人は快楽という美と楽しみの世界への道で、もう1つは美徳という神々へ仲間入りできるための険しい道。ヘラクレスは当然のことながら険しい美徳の道を選ぶ、といったストーリー。
他の作品から借用しているところが多いらしいが、そのへんはわからない。音楽には関係ないもののようだ。
序曲にあたるシンフォニーは、若々しくも牧歌的な曲で、無限の可能性をもつ若者を象徴しているようだ。ソプラノによる「さあ、いきいきとはじけるネクターを飲み干そう」(快楽)は、湧き立つようなヨロコビに満ちていて魅力的。ソプラノと合唱による「喜びと愛へと向かえ、若者よ」(快楽)はしっとりとした佇まいに、生の爆発力を秘めているよう。合唱による「立て、立て!登れ」(美徳)は少年合唱がなんともみずみずしい半面、太い意志を感じさせる荘厳な音楽。
元気で楽しいのは「快楽」の曲、重厚で悲劇的なのは「美徳」の曲。「快楽」に好きな曲が多かった。ヘラクレスにはなれそうもない(当たり前)。
演奏は、コーラス、オーケストラ共々、透明感のある響きが心地よい。それは残響をたっぷりとっているからでもあろうし、音そのものは中性的だ。クセのない金属臭がする。
弦はノン・ヴィヴラートに感じる。録音時期を考慮すると、そういった試みはまだ一般的ではなかったと思われるが、肌触りは古楽器の、かすかなぬくもりがある。折衷的というか、ピリオドとモダンのいいところ取り。歌手では哀しみを湛えたボウマンのカウンター・テナーがいい。
ヘザー・ハーパー(ソプラノ)
ヘレン・ワッツ(コントラルト)
ジェイムズ・ボウマン(カウンター・テナー)
ロバート・ティアー(テナー)
ケンブリッジ・キングズ・カレッジ合唱団
アカデミー・オブ・セント・マーチン・イン・ザ・フィールズ
フィリップ・レッジャー指揮
1974年12月、ケンブリッジ、キングズ・カレッジ教会での録音。
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