ベルリオーズ「ファウストの劫罰」 ベルナルト・ハイティンク指揮オランダ放送フィル大前研一の「マネー力」。以前、ブラジルに年間一万%という空前のハイパー・インフレーションが起きたときに、ブラジル人がとった対応はすぐれていたという。一万円の価値が一年で1円になるわけだから尋常な経済状況ではない。さっそくブラジル人がとった対応は2点。まず月給だった給料を週給にして、しかも週初めにもらうよう要求したこと。これで手取りは何割も違ってくるということだ。もうひとつは、もらった給料をすばやく銀行でドルに両替したこと。ドルを銀行に置いておくと銀行が閉鎖したときににっちもさっちもいかないから、両替したドルはタンス預金にしたという。言われてみればなかなかの機転である。それに比べ、今の日本人ではこうはいかないだろうとオーケンは言っている。日本人はもっとマネー力を磨かないと将来大変なことになると。
たしかに、今の借金まみれの経済状況をみると、日本にも同じようなことが起こらないとは言えないだろう。
と思いつつも、もらった給料の多くは、ただ同然の利息しかつかない普通預金にほっぽったままだ。「お金は働いて稼ぐ」ということが身についてしまっている。それだけじゃだめだとオーケンは言うが、なにか抵抗があるのだね。ギャンブル性があるからとか、面倒くさいとか、考え方が古いなどいろいろ思いつくが、一番の理由は、まとまった資産がないことかな。
今週は、雨のしとしと降る夜に「ファウストの劫罰」を聴き続けた。これはすばらしいベルリオーズ!
まず、オランダ放送フィルがいい。響きのバランスが絶妙だ。管楽器がやや強め。ことにフルートとピッコロ、そしてホルンの音色はハッとするくらい輝いている。こころもち重心の高いバランス感は、特に激しい場面で立体感を醸し出している。終盤のハイライトである「地獄への騎行」での緊張感は凄すぎて、チビりそうであった。この立体感によって、さまざまな素材をふんだんに盛り込んだ不可解かつ魁偉な大曲が、とても明快に生き生きと描かれている。軽やかで楽しいベルリオーズだ。
放送フィルは、コンセルトヘボウ管弦楽団にひけを取らない。
歌手と合唱もいい。歌詞がわからなくても、ストーリーが沁みてくるように情感がたっぷり。全体を通して、100%ではないものの、残尿感は少ない。今まで聴いた「劫罰」のなかで、トップクラスの演奏に認定。
録音の案配はいい。ややメタリックに感じるくらいにひんやりとした透明度は、デノンのインバル盤に近いものがあるが、あれよりもいくぶん温度が高いので聴きやすい。ラコッツィ行進曲のあとの拍手で、これはライヴだったんだと改めて気付くくらいに肌理が細かい。
ここではハイティンクの指揮が才気煥発このうえない。正直言って、この指揮者にあまりいい印象はなくて、とくに最近に聴いたベートーベン(第9、ACO)、そしてマーラー(第5、BPO)は、気に入らない。ここでの指揮者のやり方は、ひたすら終結部のカタルシスにのみ向けて組み立てていて、それはあたかもラストの問題で最下位チームが逆転するクイズ番組のようであり、いささか興ざめだった。音もゴワついている。
でも、このベルリオーズの演奏に関してはまことに心地よい。そういえば、だいぶ前に聴いたVPOとの「幻想」もよかったなあ。ベルリオーズとハイティンク、合っているのかも。
シャルロッテ・マルギオーノ(S)
ヴィンソン・コール(T)
トーマス・クヴァストホフ(Br)
ヤコ・フイペン(Bs)
オランダ放送合唱団
1999年6月、アムステルダム、コンセルトヘボウ大ホールでの録音。
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