青柳いづみこの「ボクたちクラシックつながり」を読む。
「普通のクラシックのCDは一万枚も売れたらメガヒットです。ピアニストのCDだと何千枚? いえいえ、ご冗談。レコード店のクラシックの棚はどんどん片スミに追いやられ、クラシックを置いてくれない店も増え、このごろは二百~三百枚のオーダーなんだそうです。でも、千枚はプレスしないとモトがとれないので、残りはアーティストが買い取らなければなりません」
ピアニストで作家である著者も例外ではないらしい。
かくいう私も、昨年に自著を500部出版したが、そのうち100部は手弁当。どの世界も甘くない。
これは、キューバのピアニスト、ホルヘ・ボレットの言葉。
「わたしは自分の生徒に、きみたちはこの世でもっともまともでない職業を選んだとよく話します。成功するチャンスはおそらく万にひとつでしょう」
それでもなお、著者は言う。
「音楽家でいいなと思うのは、いつも脳内モルヒネが流れていて、ごく小さなことでも進歩があったり発見があったり、あるいはすばらしい演奏を聴いたりすると、それだけで幸せになって何日も何カ月も生きていけるということです」
クラシック演奏家の場合、演奏活動だけで年収が300万以上あるのは、全体の0.05パーセントだという。
それでもやっていけるのは、脳内モルヒネのおかげだろう。
カラヤン指揮ウィーン・フィル他の演奏で、プッチーニの「トゥーランドット」を聴く。
これは、豪華な音の大噴水。
とくに、トランペットを始めとする金管楽器がスゴい。気前よく、思う存分鳴っている。けれどもそこはウィーン・フィル、全然うるさく感じない。それどころか、さらにボリュームを上げたくなる衝動にかられた。キメの細かな金色の響きは、オペラの枠を超えて、星の数もある管弦楽曲と較べても劣らないだろう。弦楽器は潤いがありしなやか。
カラヤンが満を持して録音するだけのものはある。
歌手は当時の有名どころを揃えている。ピン、パン、ポンにホーニク、ツェドニク、アライサが名を連ねるあたりは贅沢。
リッチャレッリはニルソンやマルトンに比すると小粒、可憐な乙女といった感じで、声はいい。ドミンゴのテノールはいささかひんやりとしているものの、輝かしい。
ヘンドリックスはこの役柄だとリッチャレッリと声質が似ている。だから、姫とリューの対比がぼんやりしているように感じる。
オーケストラがベルリン・フィルであったなら、また違うものになったに違いない。この演奏においてはウィーン・フィルで正解だったように思う。
なので、これは管弦楽好きには、たまらんディスクです。
トゥーランドット:カーティア・リッチャレッリ(ソプラノ)
皇帝:ピエロ・デ・パルマ(テノール)
ティムール:ルッジェロ・ライモンディ(バス)
カラフ:プラシド・ドミンゴ(テノール)
リュー:バーバラ・ヘンドリックス(ソプラノ)
ピン:ゴットフリート・ホーニク(バリトン)
パン:ハインツ・ツェドニク(テノール)
ポン:フランシスコ・アライサ(テノール)
役人:ジークムント・ニムスゲルン(バス)
ウィーン国立歌劇場合唱団
1981年5月、ウイーンでの録音。
飛行機雲。
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