岡田斗司夫の「オタクの息子に悩んでます 朝日新聞「悩みのるつぼ」より」を読む。
新聞の悩み相談がわりと好きなので、土曜版のこのコーナーもほぼ欠かさず読んでいる。
本書には、著者が悩み相談に対する戦略や考え方が書かれている。
著者が依頼を受けたとき、このコーナーには4人の回答者がいた。他に、車谷長吉と金子勝、そして上野千鶴子。
文章の上手さでは車谷に敵わない。金子は合理的かつ現実的なアドバイスをするだろう。そして上野は切り口の鮮やかさと悪口で際立つ。なので、著者は「他の相談者の長所や弱点」を考えて、みんなができないことをしようと決心する。
そして、実際に回答するまでの過程を説明する。それはとても理に適ったものだと納得できるが、それ以上に彼は人に対する思いやりを重んじる人であることがわかる。
中学2年の女子の悩み。
「クラスの女子には階級があります。明るくて派手なグループが一番地位が高く、その下が「2軍」、一番下が暗くて地味な「陰キャラ」です。(中略)私は、一番地位の低い陰キャラで、派手グループの子には無視されるか「暗い」「キモい」と言われ、先生にも男子にも話しかけられることはありません。(中略)女子にも男子にもさげすまれるのはイヤです。普通に楽しく中学校生活を送るにはどうしたらいいのでしょうか。クラス内のポジションなんか気にするな、って言わないでください。女子中学生にとって、一番大事な要素なのです」。
これに対し、著者は悩みぬく。「僕は無力だ」。「ヌルい助言しかできない」。「僕は彼女の悩みに答えられない」。
でも、なんとかしてあげたいというパワーは伝えることができる。
だから、この結論に達する。
「僕たち人間は「他人の苦悩」で、自分の悩みやつらさを少しだけ薄めることのできる、そんな罪深い存在だ。罪をなくすなんてできない。解放される方法もない。でも生きていかなくちゃいけないし、答えられない問いにも答えるしかない。「つらいよね、わかるよ。僕たちもつらかった。でも言ってくれてよかったよ。相談してくれて、ありがとう」と。ほんの少しでも救われたのは僕だ。僕たちだ」。
そして回答し、最後に彼女への感謝の言葉で結ぶ。
涙が出そうになった。
メータの指揮でプッチーニの「トゥーランドット」を聴く。
音響的には決してよくないであろうこのロケーションで、かなり精度の高い演奏をしている。
実際の舞台のあとで、手直しがされたであろうが、人工的な作為はあまり感じない。完成度は高い。
メータの指揮は手慣れたもので、良くも悪くも安定している。ぴったりと寄り添うように演奏するところは、歌手は歌いやすいだろう。欲を言えば、もっとパンチの効いた音も聴きたかった。
オーケストラは艶やかで、ことに弦楽器がいい。木目の香りがそこかしこに漂う。コーラスも万全。少し遠くに感じるが。
カゾッラは貫禄たっぷり。やや苦しそうな所もあるが、それも迫力を増す要因になっているようだ。声はじゅうぶんに強く、2幕の終わりではオーケストラの上を飛翔する。
フリットリは悪くはないものの、やや存在感が薄いように感じる。バランスがいいし陰影も深いが、もう少し可愛らしい声が好み。
ラーリンの声は気障なところを感じるのであまり好きではないが、よく歌っている。力強いし、情感もこもっている。3幕のアリアはなかなか聴かせる。
ピンポンパンの3人は芸達者。その場面で空気がガラッと変わる。
ジョヴァンナ・カゾッラ(トゥーランドット)
バルバラ・フリットリ(リュー)
セルゲイ・ラーリン(カラフ)
フランチェスコ・ピッコーリ(パン)
カルロ・アレマーノ(ポン)
ホセ・ファルディーリャ(ピン)
カルロ・コロンバーラ(ティムール)
フィレンツェ歌劇場管弦楽団
フィレンツェ歌劇場合唱団
1998年9月、北京・紫禁城でのライヴ録音。
海の前の粉屋。
PR