西村賢太の「棺に跨がる」を読む。
これは著者が芥川賞を受賞した後の作品なので、北町貫多シリーズのわりと新しいものだと思う。
大正期の私小説作家の本を自費を行うことを目論みつつ、作家活動に勤しむ主人公は、著者自身。
彼は同棲相手の女のパート代で生活をしているくせにDVが耐えないという、相も変わらず最低のことをやっている。
しかし、この男の作品にはある種の共感を覚えてしまう。それは、世間の波に揉まれながらのたうち回って生きる姿を、ありのままに(たぶん)描ききっているからだろうと思う。私はこの主人公を好きではないが、決して他人事ではないことを知っている。
この男の血と毒に、ひとつの人生を見ないわけにいかない。
チェリビダッケの指揮でブルックナーの交響曲4番を聴く。
私はこのコンビでの同じ曲をサントリー・ホールで聴いたが、録音時期が近いせいもあり、ああこんな演奏だったなと思いだした。
テンポは全体を通してかなり遅く、テンポの変化も大きい。
そのテンポの遅さは自然ではなく、ことに終楽章のラストでは恣意的に感じる。しかし、それでもなお、この演奏は素晴らしい。なんという息の深さ、長さだろう。そして、果てしなく続くようなヴァイオリンのキザミは、明らかに狂気を伴っている。
ブルックナーの音楽はもともと健全でもなんでもないが、しかしこれだけの狂気が顕在化した「ロマンティック」の演奏は他に聴いたことがない。
欲を言えば、録音はもう少し柔らかい方が好みだ。
1988年10月16日、ミュンヘン、ガスタイクザールでのライヴ録音。
大きなゴミ箱。
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