マリア・カラスのソプラノ、セラフィン指揮ミラノ・スカラ座、他の演奏で、プッチーニの「トゥーランドット」を聴きました(1957年7月、ミラノ、スカラ座での録音)。
トゥーランドットは、ソプラノ・ドラマティコ最大の難役のひとつであって、ニルソンやボルク、マルトンのようなパワー系の歌手による録音が知られています。
実際、彼女らの歌を聴くと、のけぞります。
ときどき、リッチャレッリなどのリリコが歌うことがありますが、声が綺麗なのでそれなりの魅力はあるものの、ここ一番での圧力が物足りないように感じます。
カラスは1940年代にこの役をこなしていたと伝え聞きますが、リリコも多いであろう彼女がどう歌うのか。セラフィンの指揮よりも、シュヴァルツコップのリューよりも興味がありました。
果たして、かなりいいです。カラスはドラマティックな役柄は合うので、そこは問題なく、懸念していたのはパワーであったのですが、なんら不足はありません。2幕で彼女が登場すると、雰囲気が一変します。存在感が尋常ではない。いくぶん陰のある声は天高く飛翔し、ときおりドスをきかせて、大オーケストラと渡り合います。痺れます。
この時期、彼女が劇場でこの役をやっていたのかはわかりません。もしかしたら、この演奏はセッションならではの成果なのかもしれません。だとしたらレコード芸術の妙味はここに尽きるというものでありましょう。
リューは、まずまず。なんて言うと怒られるかもしれません。じつはシュヴァルツコップが苦手なのです。ブラームスやマーラー、R・シュトラウスの歌曲や「ばらの騎士」など聴くと、いかにも古色蒼然としていて。けれど、この演奏では若々しくて艶のあるを聴かせてくれます。古めかしいところはやはりありますが。
フェルナンディのカラフは声が明るい。カラッとしている。苦悩を微塵も感じさせないサッパリ感は、むしろ小気味いい。
セラフィンのオケは軽快。贅沢を言うなら、もう少し厚みがあってもいいかもしれない。弦楽器と木管楽器は小回りがきいています。ブラスはよく鳴っていて、迫力にもこと欠きません。
皇帝、ティムール、ピン、パン、ポン、合唱は、万全の声で主役を支えています。
全体を通して、やはりカラスはただ者ではない、という印象を強めました。
トゥーランドット:マリア・カラス
カラフ:エウジェニオ・フェルナンディ
リュー:エリーザベト・シュヴァルツコップ
皇帝:ジュゼッペ・ネッシ
ティムール:ニコライ・ゲッダ
ピン:マリオ・ボリエッロ
パン:レナート・エルコラーニ
ポン:ピエロ・デ・パルマ、他
ミラノ・スカラ座管弦楽団&合唱団
パースのビッグムーン。
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