究極の娯楽 -古典音楽の毒と薬-
音楽と本について格調低く語る
ブルックナーの第8交響曲・三題
2006.10.01
-
ブルックナー
■受験日の前日
もうだいぶ前のことになるが、大学受験の前の日が日曜だった。
受からなければいけない緊張と、「ま、いいや」という投げやりな気持ちが半分半分で、その夜も寝付けなかった。当時はやたらと宵っ張りであった。
日曜の夜は、当時はラジオの深夜放送が1時で終わってしまったので、そのあとは音楽雑誌を読みながら、セルのブルックナーなどを聴いていた。もう、勉強はしなかった。
ブルックナーは、聴く者のある種の感傷を受け付けないタイプの音楽だ。だから日曜の夜に聴いても、夜の深さからくる何かのインスピレーションを感じるというよりも、古典的な秩序のある佇まいに清廉さを感じるのだ。
ロマン派の作曲家としては珍しいタイプだ、などと妄想をし、時間を忘れて朝を迎えたのだった。
このセルの演奏を、LPからCDに乗り換えながら、年に1度くらいのペースで聴いている。この8番には、ACOとのライブも捨てがたい魅力があるが、録音の良さでこの盤のほうが有力。
意外に何度聴いても飽きない演奏である。
ヨッフム指揮バンベルク饗/ブルックナー第8
■ヨッフム/バンベルク饗の来日公演
手持ちのチケットはC席だかD席だったかで、NHKホールの3階後方だったのだが、開始直前に2階の前方のカメラ席の周辺があいていることを発見し、ゲルマン民族の大移動。
指揮者が入ってくる前にギリギリ着席して、ドキドキしながらも、すっとぼけて拍手をしていた。休憩のないコンサートだったので、曲が始まった途端に、席を移動したことなどすぐに忘れてしまった。
ヨッフムがドレスデンとのブルックナー全集を完成した直後くらいの時期だったと思うが、このバンベルク饗とのコンサートは、指揮者もオケも気合充分だった。
このときヨッフムは椅子に腰掛けての指揮であったが、第4楽章のフィナーレの最後の5秒に、スックと立ち上がって締めくくったものだ。そのパフォーマンスが止めの一撃になり、終わったときは感動して動けなかった。ヨッフム、わりとケレン味のあるヒトだった。
■「結婚できない男」状態
ひとりでオーケストラ曲を聴いていると、指揮をしたくならないだろうか。
私は、少々酔っ払った状態のときに思わずしてしまうことがある。最近は減ってきたが、一時期は週に1,2回は踊っていたかもしれない。
指揮棒は、楽器屋に置いてるようなキチンとしたものではなく、台所からくすねてきた菜箸を使うのがならわしである。
先週終わった「結婚できない男」というドラマでは、主人公の桑野という人物がクラシック好きで、自宅でマーラーやシュトラウスを聴きながら恍惚状態で指揮をするシーンが毎回あって、けっこう笑えた。このドラマは割りと視聴率が良かったようである。こういうシーンをお茶の間で毎週見ているヒトがいると思うと、-その微妙であろう評価はおいておいて- ある種市民権を得たような気がするのである。
十数年前のことだが、いつものようにほろ酔い気分で音楽を聴いていた。カラヤンがウイーン・フィルを振った、聖フローリアン教会でのライヴLDだった。
場面は第4楽章の終結部。ここで指揮をしないわけにはいかんと身体が強く訴えてきて、菜箸の乱れ打ちをしている最中に、ドアが開いて家の者がこちらを伺っている気配がしたのを、なんとなく覚えている。が、こっちは指揮に夢中だったうえ、少々気まずい空気を察知したので、知らん顔をしてそのままフィナーレに突入。
後日、「あのときは本当に恐かった」と、ことあるごとに言われたものだが、このたび「結婚しなかった男」を見るたびに何度も蒸し返されたことは、言うまでもない。
※勝手にブルックナーの日※
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Comment
無題
- しじみ
男性はクラシック音楽を聴いていると、本当に指揮したくなるものなのですね。以前、「おうちで指揮者」という本が出ていたのを思い出しました。この本、付録に指揮棒がついていたのですが、なるほど、菜箸があれば指揮棒は無用ですね(笑)
2006.10.01 Sun 22:20
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Re:しじみさん、こんばんは。
- 管理人:芳野達司
酔っ払っていたり、ちょっと体調の悪いときにそういうことになるようです。「おうちで指揮者」ありました。恥ずかしくて買えませんでした(笑)。
女性は指揮しませんか?
最近は、女性の指揮者も出ていることだし、そろそろ。
2006.10.01 22:27
無題
- Niklaus Vogel
驚きました。まさか、同じ演奏を取り上げる方がいらっしゃるなんて!
あのヨッフムの来日は、今から思い起こすに、ことさら本国の音楽界が湧いていたような気がします。
私はブルックナーではなく、ベートーヴェンプロに行きましたが、それはそれはすばらしい忘れ難き演奏となっています。
青春時代のすばらしい思い出です。
2006.10.01 Sun 23:01
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Re:Niklaus Vogelさん、こんばんは。
- 管理人:芳野達司
いや、重ね重ね奇遇ですネ。
ヨッフムのあの演奏が、CDになっていまだに聴き継がれていくのが、なんだか不思議です。
「ことさら本国の音楽界が湧いていたような」確かに、そんな気がします。公演後に楽屋口で粘りましたが、サインはもらえませんでした。やたらヒトが多かったのです。ブルックナー・ファンは恐ろしいと、そのとき感じたものです(笑)。
2006.10.01 23:12
無題
-
miwaplan
こんにちは。ご参加、ありがとうございます。
ふふふ、聴きながらの指揮、今はやらなくなりましたが、若い頃はしてましたね、汗ダクになりながら、短くした菜箸を振り回してました。
曲順(楽章)も指揮する演奏も決まっていて、約1時間コースで、スッキリサッパリできる、ストレス解消法でしたなあ、あれは。
でもね、これをやると、演奏の呼吸というか「間」の取り方を覚えることができて、演奏の特徴をそれこそ体で覚えるには良かったです(*^。^*)
私のは「バーンスタイン型」。
次回のウィーン・フィルも、ご縁がありましたら、よろしく、どうぞ。
TBさせていただきました。
2006.10.01 Sun 23:11
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Re:miwaplanさん、こんばんは。
- 管理人:芳野達司
今日も、パレーの「オルガン付き」を聴いていて、やってしまいました。菜箸がないので、手で。
1時間やると、かなりクタクタになりますね。「演奏の特徴をそれこそ体で覚えるには良かった」なるほど、体は正直です。アタマで考えるリズムとは少し体感的に違いますね。私はジュリーニ型です…。
TB、ありがとうございました。
2006.10.01 23:20
無題
- naoping
おうちで指揮するのならもーガンガン好きにやってよいのですが。
私のblogにも書きましたが、ウィーン国立歌劇場引越公演のパルシファル全曲で似非指揮者を席の隣の隣で最初から最後までやられた経験があります。気になってどんな舞台だったかほとんど記憶にございません。まあ、ご本人も相当疲れた(5時間くらい?)と思うんですけどね。(・・・って色々なところに載せたいだけです)
2006.10.02 Mon 16:30
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Re:naopingさん、こんばんは。
- 管理人:芳野達司
naopingさんの記事拝見しました。コメント欄ですね。
「パルジファル」全曲を客席から燕尾服姿で指揮するとは。スゴすぎます。まさしく本当のホンモノです。彼はどういう私生活をおくっているんだか。
しかし、隣の席ではタマリマセンね。
楽譜をばらばら捲っているヒトなどはかわいいものです。
2006.10.02 22:21
無題
- ダンベルドア
こんばんは。
おもしろい話ありがとうございます。
私は指揮棒は持っているものの家で指揮したことはないのですが、歩きながらヘッドフォンで聞いていると、ここぞというところで右手が上がります。もちろん周りに人がいるのに気がつく慌てて知らん顔をするのですが・・・・・。
2006.10.02 Mon 22:49
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Re:ダンベルドアさん、こんばんは。
- 管理人:芳野達司
指揮棒もってらっしゃいますか。あれは、握るところが膨らんでいるのですね。とても持ちやすそうです。家のものに怪しまれるので、買うのは自制しているのですが、最近またほしくなりました。
昔は、サン=サーンスの3番とか「復活」のフィナーレなど指揮していて、肩がぬけそうになったものです。
>
2006.10.02 23:08
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