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"あの日、マーラーが"、カッチェン、ブラームス"3番"

2015.12.27 - ブラームス

ma


藤谷治の「あの日、マーラーが」を読む。

「2011年3月11日。東京・錦糸町の錦糸ホールで新世界交響楽団のコンサートが開かれようとしていた。演目はマーラーの交響曲第五番。しかし、14時46分、東日本大震災が発生する」

東日本大震災。東北から関東に住んでいる人にとっては忘れがたい記憶であろう。その日、私は東京で勤務していた。東北で被災した方には申し訳ないくらいに小さいことだが、あの日は首都圏もじゅうぶん怖かった。当時は有楽町にある古いビルの3階にいて、私を含めた同僚はみんな、机の下にもぐったものだ。まさか、こういうことを現実に行う日がくるとは思わなかった。埼玉にあった自宅には戻らずに、実家まで、ほうほうのていで歩いて帰った。途中で見かけるコンビニの食品はすべて売り切れており、この世の終わりの始まりかと思ったもの。ビルの壁に亀裂がはしっているのを見たのは後日のこと。

都内の交通機関がマヒしている状況のなか、新日本フィルハーモニー交響楽団は、すみだトリフォニー・ホールでのコンサートを決行した。指揮はダニエル・ハーディング。その模様はテレビのニュースでも放映されていたから、あなたもご覧になったかも。1900を超える座席は完売していたが、実際に来ることができた人は105人。

本書は、当日来ることができた何人かにスポットをあてて、彼らの思いを綴ったフィクション。音楽評論家、離婚したばかりの女性、ひとり暮らしの老未亡人、美人ヴァイオリン奏者のおっかけの青年。交響曲の進行とともに、彼らの心象風景が情感豊かに描かれる。
作品としての完成度はさほど高いとは感じなかったものの、一気に読了した。あの日を描くことに、やはり意義があるように思わないわけにいかなかった。







カッチェンのピアノで、ブラームスのピアノ・ソナタ3番を聴く。

ブラームスのピアノ・ソナタはみんな若書き。最後となった3番は彼が20歳のときに作曲された。3曲とも若さならではの、隠しきれない激情に満ちているが、3番は格別だ。暗い青春の荒っぽさとメランコリーをこれほど、ど真ん中ストレートで投げ込んでいる音楽も珍しい。

だから、いままで聴いたいろいろなピアニストに、そういった激しさを求めていたし、満足した。このカッチェンによるピアノにも、そういう要素はある。でも彼の場合、知性が強い。楽譜のすみずみまで目を通したうえで、熟考したことが窺える。考え抜かれている。
テンポの変化や強弱のつけかたはとてもデリケートであり、とても自然。そのあたりは速い楽章にも緩徐楽章にもあてはまるもので、ルバートは多いけれど違和感は皆無。
なかでも、2楽章は寄木細工のように繊細で暖かい。3楽章はたきぎ切りのように強く激しいが、手触りはしっとり。いままで聴いたピアノの中で、もっとも感銘をうけた。


1962年~1965年、ロンドン、デッカ第3スタジオでの録音。





ma
 
海へ。





重版できました。




「ぶらあぼ」4月号に掲載されました!







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Comment

ブラームスのピアノ・ソナタ - yoshimi

こんばんは。
ブラームスのピアノ・ソナタのなかで一番好きなのは、子守歌風の主題で始まる第1番です。
カッチェンの第1番の演奏は、吉田秀和氏が著書で褒めていました。
最も有名な第3番の方はほとんど聴かないのですが、久しぶりに聴いてみるのも良い気がしてきました。

初めてカッチェンのブラームスを聴いた時は、音楽が淀みなく流れるので、そんなにルバートを多用しているとは気づかなかったのですが、よく聴くとほんとにルバートたっぷりですよね。
感情表現も濃いのですが、主情的にも情緒過剰にも聴こえないところが不思議です。
カッチェンは外交的で明朗で主義主張が明確な自我の強い性格だったようです。
大学時代の専攻が哲学と英文学で、飛び級で卒業してフランス政府の奨学金でパリへ留学したという理知的な人でもあったので、内面も演奏も感情と理性のバランスがうまくとれているのでしょう。
カッチェンのプロフィールを記事にまとめていますが、なかなか興味を魅かれるキャリアと人となりでした。
お暇なときにでもご覧ください。
http://kimamalove.blog94.fc2.com/blog-entry-901.html

今年もいろんな記事を楽しく読ませていただいて、ありがとうございました。
来年もよろしくお願い致します。
良いお年をお迎えくださいませ。
2015.12.28 Mon 21:37 URL [ Edit ]

知情意そろった演奏です。 - 管理人:芳野達司

yoshimiさん、こんばんは。
このボックスを買ったのは「ヘンデル・ヴァリエーション」とこのソナタが目当てです。なので早速このふたつを聴きました。安定感抜群。
1番ですね。細かいところはあまり覚えていないのですが、1も2もいい印象を持っています。聴くのは来年になるでしょう。楽しみです!
吉田秀和は、小林秀雄との確執があったので、シューベルトとブラームスに傾倒してみた、という説があります。真偽のほどはもうわかりませんが、彼が愛していたのはよく伝わります。
42歳で夭折したカッチェン。その齢にしては、驚くほどの大きなものを残してくれました。
ご紹介ありがとうございます。拝見します。

ああ、もう年越しの時期ですね。明日まで会社です。。
あっという間の休暇ですから、例年と同じくゴロゴロしてます。笑
こちらこそ、今年もありがとうございます。
よいお年を!!
2015.12.28 22:12
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