ゲルバーのピアノで、ブラームスの「ヘンデルの主題による変奏曲とフーガ」を聴く。
このCDは、同じ作曲家のソナタ3番とカップリングされている。10年ほど前に、ソナタを聴きたくて購入したものだ。
最近、ブラームスのヘンデル・ヴァリエーションに凝っていて、いろいろな演奏を聴いては無駄にレヴューしている。そんななか、ブログ仲間から「ゲルバーはいいよ」というようなお便りを頂いた。では聴かなきゃと思い、amazonで検索したら、どうも見たことのあるジャケットが。ヘンデルを完全に失念していたのである。
もう、ホントに馬鹿。バカバカ。豚に真珠とはこのことだ。
ゲルバーのピアノ、冒頭の淡い翳りを含んだ軽やかな主題の弾きぶりで勝負はほぼ決まった。以降においても、テンポの細かな揺らぎ、そして抑揚のつけかたが自然であり説得力がある。テクニックも申し分ない。弾きぶりが、ことごとく腑に落ちる。深く考え抜かれており、ニュアンスはじつにデリケート。各変奏での表情の移り変わりを、繊細に描き分けている。一音たりともないがしろにしていない。しかも、勢いもいい。
このピアニスト、20年以上前に東京公演を聴いた。ベートーヴェンのソナタばかりのプログラムだった。悪くはないけれども、感服するというほどではなかった。おそらく、ワタシが未熟だったせい。この録音時期と同じ頃のことだろう。
だが、このブラームスは、問答無用にいい。ああ、ゲルバーはこういうピアノを弾く人なのだということを、生で聴いたとき以上に強く感じさせられた。そしてこの曲を、技術的にも深みにおいても、ブラームスの最高傑作のひとつであることを確信した。
そんな演奏である。
1992年7月、オランダ、ライデン、スタッヘホールザールでの録音。
スワン河。
重版できました。
「ぶらあぼ」4月号に掲載されました!PR