近所かどうかギリギリだけど、散歩道の山吹町にあるラーメン屋「きよし」の煮卵ラーメン。
長浜のようなとんこつラーメンにはストレートの細麺が合うが、とんこつ醤油ラーメンには、太くて縮れたものも合うようだ。
ラーメン店はせわしないのであまり足を運ばないが、たまに無性に食いたくなる。
オピッツのピアノで、ブラームスのピアノ・ソナタ3番を聴く。
この曲に魅せられたのは、10年ほど前。なんの予定もない日曜日の昼下がり、退屈しのぎに聴いたのは、ツィメルマンの来日公演のエアチェック・テープ。しばらく聴いて「なんなんだ、これは」と驚愕した。
エアチェックしたのは、それからさらに十何年も前のはずだったから、ツィメルマンはけっこう若い頃のものだったろう。ライヴならではの臨場感に溢れたピアノである。
もちろん、まだ大事に持っている。
ブラームスはこの曲を作ったのは、20歳前後の頃。だからと言うわけではないが、この曲を聴くと思いだすのは、坂口安吾である。めったやたらといきりたっていたり、その反面おそろしくナイーヴなところがあったり。そんな随筆である。わたしはこのソナタを、安吾の「暗い青春」に見立てている。青春は決して明るくない。生きる意味とはなんなのかわからなかった。まあ、今もわからない。今の生活もたいして楽ではないが、あの頃はもっとずっと痛切だったような気がする。語り尽くせないほどに、たくさんの不備があったのである。
あなたはそうではなかったか。わたしは、そうだった。
オピッツのピアノは、素晴らしい。痒いところに手がしっかりと届いて、労わってくれる。激しい部分は極度にラディカル、緩徐楽章は濃厚で夜の帳が濃い。激しい部分も、穏やかな箇所も、のたうちまわっているよう。オピッツみたいないわゆる正統派のピアニストがこの曲をやると、ときにとんでもないことになるが、このピアノもとても聴きごたえがある。
ここに彼の青春を見ることは、あながち穿ったみかたではあるまい。
1989年7月、ノイマルクトでの録音。
仲良し。
重版できました。
「ぶらあぼ」4月号に掲載されました!PR