ゲルハルト・オピッツのピアノで、ブラームスの「ヘンデルの主題による変奏曲とフーガ」を聴く。
彼はドイツの伝統を汲んで、ベートーヴェンとブラームスを得意とするピアニスト。昔、パリのサル・プレイエルでベートーヴェンの4番のコンチェルトを聴いたことがあるが、それはこの一連の録音の少し後。端正なフォルムのなかから淡い叙情を滲ませるのが得意なピアニストだと認識している。
オピッツによるヘンデル・ヴァリエーションは、確かな技巧を土台にしつつ、ブラームスの青春のまっすぐな野心を瑞々しく描いた演奏だと言える。1861年10月、ブラームスはクララに宛てた手紙でこう言っている。「あなたの誕生日のために、あなたがこれまでまだ聴いたことのないような変奏曲をつくりました。御自分の演奏会のためにこれをしばらく練習して覚えてください」。もちろん、オピッツは自信満々。
どんな複雑なパッセージの場面でも、ひとつひとつの音がクッキリと分離されていて、とても気持ちがいい。質量は重すぎず軽すぎずちょうどいい按配。どちからと言えば、高い音が冴えたピアノだろうか。軽やかななかに、スプーン一杯の砂糖がまぶされている感じ。ブラームスだからといって、あまりに重いのは苦手なので、このくらいがちょうどいい。
ラストのフーガは、目覚ましいテクニックで駆け抜ける。
ピアノは、ベーゼンドルファー・インペリアル。
1989年、ノイマルクトでの録音。
海辺。
重版できました。
「ぶらあぼ」4月号に掲載されました!PR