youtubeは便利だけれど音質がいまひとつだし、著作権の問題が曖昧だから、あまり進んで聴かない。このナットの演奏は戦前の録音。著作権もへったくれもないのだが、一応手持ちのCDを聴く。自前のオーディオ装置では、あまり変わり映えはしないのだけれど、いかにも聴いた手ごたえがある。自己満足なのであるが。
このピアニストの特長は、天空を舞うように軽やかな音と、それが一粒づつ明瞭に聴こえるところ。それは、この曲においても顕著に感じられる。
このボックスは、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ全集を核としている。その弾きぶりは後年のグルダ(アマデオ盤)に似ている。いや、年代からすればグルダがナットに似ているのだが。ひとつひとつの音が、まるで採れたての真珠のように屹立して輝く。そういうところ、グルダは似ている。
そんなスタイルは、このブラームスでも同様に繰り広げられる。軽やかなタッチからは、春のまぶしい風が吹く。若々しさが漲っていて、運動神経は俊敏。仄かに官能的な味わいもある。それは半音階の魔術か。
ブラームスは秋だけじゃないよ、春や夏にもいるよ。
全ての変奏に、味がある。
ナットのテクニックは万全。録音時期を考慮すると、おそらく一発録りなのだろうが、ミスはない。
凄いピアノである。
1938年6月、パリ、スタジオ・アルバートでの録音
PR