レオポルド・ウラッハのクラリネット、イエルク・デムスのピアノで、ブラームスのクラリネット・ソナタ2番を聴く。(1953年、ウイーン、コンツェルトハウス・モーツァルト・ザールでの録音)。
この曲の初演は、1895年1月にウィーンで行われた。ブラームスが死んだのが1897年だから、最晩年の出来事と言える。
彼は、クラリネットによる作品を、晩年になって立て続けに書いた。ソナタの1番や、三重奏曲、五重奏曲である。
このことは、モーツァルトが同じく晩年になって、五重奏曲や協奏曲を書いたことに影響を受けたのではないかと、邪推している。自分の寿命は精確にはわからないから、実のところは偶然なのであろうが、お話しとしてそう思いたいのである(事実は、当時マイニンゲン宮廷楽団のクラリネット奏者であったミュールフェルトに影響を受けたからだと云われている)。
さて、ウラッハのクラリネットである。
彼は世評が高いが、そのうまさがいまひとつわからない。プロクラスのクラリネットの技術の優劣はどこにあるのか。ウラッハとメイエとの違いはかろうじてわかるかもしれないが、言われてみないと。ピアノやヴァイオリンだと、うまいか下手かという議論ができるが、クラリネットって、よくわからない。表情のつけかたに、一長一短があるくらいなのか? レパートリーをみる限りだと、技術的にはメイエやオッテンザマーのほうがうまいような印象はある。
だからテクニックの程度はわからないのだが、これは歴史的なディスクなだけあって、味わいはなんだか濃い。音が、深い。
1楽章は、穏やかそのもの。秋のふじみ野の青空。ときおり、白々と燃える情熱の夕立が襲う。3楽章。ひょうひょうとしている。あっけらかんとしていて、達観している様子。成仏、しているかのようだ。ただ、ラストはやや激しい。線香花火のよう。このあたりの雰囲気は、ピアノの小品Op117,118と肌触りが似ている。
ブラームスがこれを作曲したのは、60歳代半ばだから、現代からしてみればまだまだ若いと言えるかもしれない。でも生きた時代を考慮すれば、まさしく晩年。
山あり谷あり、さまざまな経験を経た年老いた人間の率直な思いを、この音楽から嗅ぎ取らなければ、歳をとる意味は、ないのかもしれない。
屋根の上のパーティ。
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