小林秀雄の対話集「直感を磨くもの」から、湯川秀樹との対話「人間の進歩について」を読む。
この対話は1948年に行われた。湯川はこの翌年に、日本人初となるノーベル賞を受賞している。
小林は開口一番、あなたに会えてうれしいがこちらは無学なもので困る、というように謙遜するが、やがて丁丁発止の激論となる。
湯川がライプニッツを論じると、小林は返す刀でデカルトを引用する。知性の応酬が激しく、眩しい。
この対話は、日本に原爆が落ちた3年後に行われている。あの「技術の復讐」に対しふたりがどう考えるかを語るくだりを引用して、小林の対話集を締めくくる。
湯川「平和はすべてに優先する問題なんです。今までとはその点で質的な違いがあると考えなければいけない。そのことを前提とした上でほかの問題を議論しないといけない。アインシュタインはそういうことを言っている。私も全然同感です」
小林「私もそう思う。しかし、科学の進歩が平和の問題を質的に変えて了ったという恐ろしくはっきりした思想、そういうはっきりした思想が一つあればいいではないか、あとは平和を保つ技術、政治技術の問題だ。どうして政治家たちはそうはっきり考えないか」
シルヴェストリ指揮フィルハーモニア管弦楽団の演奏で、フランクの交響曲ニ短調を聴く。
シルヴェストリはルーマニアの指揮者だが、これは、そこかしこにフランスの香りが漂う演奏だ。それは、弦楽器が重くなく、ホルンを中心とした金管楽器と木管楽器を強めに明確に吹かせているからじゃないかと思う。
1楽章の展開部で何度か繰り返される、コーラングレ、ホルン、クラリネット、オーボエ、フルートと引き継がれる経過句がとても美しい。ここを聴くだけでも値打ちのある演奏と言える。
ただ、その後もいい。2楽章のコーラングレのソロはいくぶん硬い響きで軽やかに夜のしじまを歌う。ホルンも素晴らしい。ぐうっと粘るクラリネット、こんなやり方、初めて聴いた。ひんやりとした弱音器のヴァイオリン、ほんのりとポルタメントをきかせたチェロはなんとお洒落なこと!
終楽章は才気煥発。弦楽器の泡立つようなキザミにティンパニの太い杭がつきささる。第2主題は速めのテンポでもって幽玄に鳴らされる。この金管楽器は、天才である。これからの人生でもフランクの交響曲を聴く機会があるだろうが、この個所を聴けば必ずシルヴェストリのやり方を思い出すであろう。演奏史に残るファイン・プレーであるから、ここは絶対に聴かなければならない。
最後は金管楽器の気兼ねない咆哮で締めくくる。
先日に聴いた、クレンペラーのフランクも名演だった。とすると、50~60年代のフィルハーモニア管弦楽団はこの曲のオーソリティーだったと言えるだろう。
今はどうか知ら。
1959年1月、3月、ロンドン、キングズウェイ・ホールでの録音。
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