パガニーニ ヴァイオリン協奏曲4番 クレーメル(Vn)ムーティ指揮ウイーン・フィル丸谷才一の「思考のレッスン」を読む。
丸谷のウンチク話が満開。聴き手の質問に応える形式になっており、話言葉で展開するためとても読みやすい。よっぱらっているのではないかと思うくらい、じつになめらかな語り口である。
ことに、短歌に関するウンチクの切れ味は抜群。
『「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日』
『これを読んだときに、僕は、「何かあるな」と思ったんです。そう思いながら、僕のもう一つのホーム・グラウンドである『新古今』と比較して考えていて「アッ」と思ったんです。「これは七夕の前夜祭なんだ」と。『新古今』には、七夕の歌がたくさんあるんですね』
俵万智はそんなことを考えていなかったらしいが、もしかしたら無意識の伝統継承ということもありうる。こういった想像が楽しい。
後半は論文の書き方などかなり実践的なことが書かれていて卒論に追われる学生には役に立つと思うが、丸谷のウンチクを楽しむだけでもじゅうぶんな価値がある。
パガニーニのヴァイオリン協奏曲。1番がよく知られていて、次が2番、あとはまあなんとなくあるのは知っているなあというようなところで、5番以降にいたってはアッカルドのものしかみたことがない。
そんなテキトーきわまりない知識であるから、この4番は初めて聴いた次第。
パガニーニの協奏曲というのは、リストやベルリオーズよりも、ドニゼッティやベッリーニに近いテイストがあるように思う。
楽器の技術の可能性を極めようとしている、ということはもちろんあるのだろうけど、書き方そのものは歌に重きを置いているようだ。
決まり文句のような序奏から、ソロが出てくるところはまさにヒロインの登場を思わせるし、輝かしい技巧をもって高音で引っ張り続けるあたりはコロラトゥーラのアリアを思わせる。ヴァイオリンが主人公のオペラといったところだろう。
クレーメルのテクニックは万全。破綻なくぐいぐい進んでいくので、じつは簡単な曲なのじゃないかと勘繰りたくなるくらい。
音そのものはとてもきめ細かい。中低音のなまなましくも厚い響きは木の香りを思わせる。ウイーン・フィルの弦も好調。涙を溜めたように悲しげな序奏から、響きが濃い。これだけ濃厚に響かせることのできるオーケストラはほかにはなかなかない。
20世紀の色を感じるカデンツァはクレーメルによるもの。
それにしてもこの演奏、クレーメルとオケの音色がよく合っている。ムジーク・フェラインのくすんだ黄金色に統一されている感じ。録音の加減にもよるのかもしれない。
1995年10月、ウイーン楽友協会大ホールでの録音。
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