川上弘美の「ゆっくりさよならをとなえる」を読む。
これは本や食べ物について綴ったエッセイ。本への愛着もさることながら、彼女の食に対するこだわりぶりが面白い。
オクラのおろし和え。「壇流クッキング」を読んだ著者(ワタシもこれ、愛読している)が、ハマる。オクラを小口切りにして大根おろしと混ぜ合わせ、冷蔵庫で寝かせてからおもむろにレモンをかけるという簡単料理。これを彼女は夏の間食べ続ける。
あるときは、突然スパゲッティーナポリタンを食べたくなる。それも、昔の喫茶店で出していたような、ケチャップがベタベタの。それがなかなか探すことができずに難儀する。
冬は生牡蠣。レモンをきゅっと絞り、つるつると口にすべりこませる。あまりのおいしさに10個20個は平気で平らげるが、必ずお腹をこわす。けれど毎年同じことをしている。
彼女の食いしん坊ぶりが如実にあらわれていて、可笑しい。
シルヴァン・ブラッセルのハープでバッハの「ゴルトベルク変奏曲」を聴く。
ハープによる演奏を初めて聴いたが、ほとんど違和感がない。もともとピアノ(チェンバロ)のために書かれた曲だから、ハープで弾くには技術的にも難しいだろうに、ブラッセルは軽々と弾いているように見受けられる。
ハープという楽器は好きだが、お弁当のお新香のように、ちょっとだけ出てくるのが味わい深いものだと思っていた。ベルリオーズの「幻想交響曲」みたいな感じで。
でも、この大曲でずっと聴いていても、飽きない。あたかも鍵盤楽器の一種であるかのような錯覚さえ覚える。なにしろ音がいい。春の淡い夢のような響き。音のよさだけで聴き惚れる。
ブラッセルはリヨン音楽院を卒業後、アンサンブル・アンテルコンタンポランの補助指揮者となり、ブーレーズなどのもとで仕事をしていたそう。現代音楽に関心が強く、ハープのために多くの作品を編曲している。
「ゴルトベルク」をこれだけ見事に弾ききることができるのならば、他にも期待しないわけにいかない。
2007年12月、パリ、聖ピエール教会での録音。
合成写真ではありません。
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