バックス、バターワース、ブリッジ作品集 テイト指揮イギリス室内管弦楽団ジョイスの「ダブリンの市民」を読む。1年近くかかってしまった。
これは、15編からなる短編集で、いずれもダブリンが舞台になっている。この街に住む人々の、まったくドラマチックとはいえない平凡な日常生活を、淡々と描いている。
好奇心旺盛な子供、昼間にぶらぶらしているおじさん、酔っ払い、妻に嫉妬する男など、主役はみんなどこにでもいる普通の人々だ。
日常世界の些細なことをじつに淡々と念入りに描いているものの、ストーリーそのものに魅力があるわけではないから、一気呵成に読ませられるものではない。むしろ退屈といえる。
毎日の生活というものはいかにも退屈であるけれど、それを受け入れている人々の滑稽さ、健気さが、じんわりと心に染みてくるのである。
アイルランド市民の喜びや悲しみを味わったあとは、ロンドンに生まれてアイルランドで世を去ったバックスの作品を。
「小オーケストラの3つの小品」は、彼が30代半ばの1928年に作られている。
「宵の断片」
冒頭の木管の響きが厚みのある雲と穏やかな晩餐を連想させ、その後に登場する独奏ヴァイオリンとそれを煽らんばかりのオケの掛け合いのスリリングさに一日の終わりの慌しさを感じる。
「アイルランドの風景」
くぐもった弦の導入から、ふたつのヴァイオリンとハープによるメランコリックな世界が展開する。どんよりとした灰色の風景だ。
「陽のなかのダンス」
一転して、音楽は快活で動きの激しいものになる。腰の落ち着いたリズミカルさ。
つやがあってコクのある弦にのって、フルートやオーボエ、コーラングレなどの木管楽器が、これもしっとりとした響きを聴かせる。
1985年、ロンドンでの録音。
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