伊集院静の「螢ぶくろ」を読む。
これは、財閥系と思われる上流の家柄に生まれた女が、破天荒な恋に翻弄された末に没落していく様を描いた短編小説。
この素材ならば長編にしてもおかしくないと思われるが、現在(ホームレス)と過去(いいところのお嬢様)との対比が、スピード感をもってリズミカルに描かれているので、短編に仕立てた作者のこれは工夫である。
若き主人公の恋のやりとりがとても大胆である。お嬢様というものは、こんなにも奔放なのだろうかと、オジサン心は妙に揺れる。
螢ぶくろとは、つりがね草とも言う、小指の大きさほどの可憐な花。昔の子供は、螢をこれに入れて小さな虫の光を楽しんだのだという。
恋と人生に疲れた女は、最後にこの花に包まれる。
オーマンディ指揮フィラデルフィア管弦楽団の演奏で、チャイコフスキーの交響曲第7番変ホ長調(ボガティレフ補筆完成版)を聴く。
チャイコフスキーは、交響曲5番の後続として変ホ長調の作曲に取り組んだ。しかし、その筆は1楽章で止まり、それは後にピアノ協奏曲3番として出版される。
その後、1950年代にセミヨン・ボガティレフがこの曲を4楽章の音楽として再構成した。どの楽章も、原曲はチャイコフスキーの手によるものである。
1楽章はアレグロ・ブリランテ。あたかもラフマニノフの交響曲のようにメランコリック。軽快な第2主題は「くるみ割り人形」を思わせる。
2楽章はアンダンテ。弱音器をつけた弦楽器の響きが美しい。交響曲の緩徐楽章というよりは、バレエ曲の静かな場面のよう。
3楽章はヴィヴァーチェ・アッサイ。これはまさにチャイコフスキー。めくるめく色彩感が花火のように広がる。初期の交響曲のスケルツォ楽章といって通用する。
4楽章はアレグロ・マエストーソ。よくできている。これもまた、初期の交響曲の一編のようである。
全体を通して、打楽器がやや多めなところが交響曲として若干の違和感を感じなくもないが、オーケストレーションはチャイコフスキーっぽくできていて楽しい。
オーマンディの指揮は万全。もっと演奏される値打ちはあるように感じるが、これ以上の演奏をしようと思うと気が滅入るか。
1962年、フィラデルフィアでの録音。
おでんとツイッターやってます!シティ。
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