千蔵八郎の「名指揮者があなたに伝えたいこと」を読む。
これは、リュリからキースラーまでの指揮者の談話や著作からの引用から、指揮者という仕事に対する心構えを開陳した作品。
面白さは指揮者によってムラがある。19世紀までの指揮者はほぼ、作曲家や演奏家との兼業だったから今と事情が違うこともあるだろう。なので、20世紀の半ば頃に生まれた指揮者の談話が面白く感じられた。
ロリン・マゼールの章を引用する。当時のままの楽器による演奏をどのように考えるかという質問に対し、
「そのような演奏は、もちろん非常に不自然です。なぜなら、それによってオリジナルの再現が得られるわけではありませんから」といっている。これは、多くのスター指揮者の見解とたぶん同じだろう。
そのいっぽう、古楽器の旗手とも言えるロジャー・ノリントンはこう言っている。
スタイルとしては当時のものを再現すべきだが、楽器については必ずしも古楽器であることにはこだわらない、と。
楽器の扱いひとつとってみても、見解は広い。ノン・ピリオドかピリオドかの二元論ではないわけである。
デュトワの指揮で、チャイコフスキーの「白鳥の湖」全曲を聴く。
壮麗で、色彩感溢れる演奏。いくつかある「白鳥の湖」全曲の名演リストのなかに悠々と食い込む。
どの楽器もきっちりと鳴っているし、舞踏的なリズム感もいい。このテンポが果たして実際の踊りに即したものかは舞台を観てみないとわからないけれど、管弦楽曲として聴いたらなんの不足もない。
このディスクでは、1953年に発見された4曲の「パ・ド・ドゥ」も聴きもの。
いかにもチャイコフスキー初期の作品という感じ、甘さと弱さが混合した音楽になっており、若さと突進力が満載。完成度はさほど高くないかもしれないが、チャイコフスキーのバレエ音楽ファンならば必聴である。
デュトワの指揮は全曲を通して奇異を衒わないもの。ティンパニと大太鼓を強調して臨場感を増やしている。モントリオールのオケの技量の高さは、今更言うまでもない。
シャルル・デュトワ指揮
モントリオール交響楽団
1991年5月、モントリオールでの録音。
数えきれない貨物車両。
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