チャイコフスキー 「眠れる森の美女」全曲 ドラティ指揮 ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団チェーホフ (浦雅春訳)の「いいなずけ」を読む。
これは、ロシアの田舎街に暮らす若い娘が病気がちの印刷工の影響を受けて、婚約者からも家からも逃げ出して自立するという話。
最初はマリッジブルーだろうと思わせられたが、やがて実は相手が嫌いだったと判明するくだりが、端的に自然に描かれている。
主人公の女性は、おとなしそうでいて行動は大胆。
女性の自立をテーマにした小説は少なくないが、これはけっこうラディカルな作品ではないかと思う。
ドラティのチャイコフスキー「眠れる森の美女」全曲を聴く。
これはキリッと締まった、やや辛口の名演。
ドラティはコンセルトヘボウの重厚な音質を基調にしつつ、小股の切れ上がったような演奏を進めていく。
1幕の「オーロラ姫のヴァリアシオン」ではヴァイオリンのソロにフルートが重なるが、フルートのコクのある音といったら! 2幕の「ファランドール」では、チューバが随所にキラキラと光って面白い。同じく2幕の終曲の、ウィンナコーヒーのように甘くて濃い弦の響きも深く印象に残る。3幕の「ポロネーズ」では大太鼓とシンバルの重い打撃が腹に響いて気持ちがいい。「パ・ペリション」という曲は初めて聴くような気がする。プレヴィン盤にもスラトキン盤にも収録されていなかったと思う。冒頭の金管によるリズムが、まるで現代音楽の扉を開けたかのような、不思議な感覚の音楽。3曲目の「ヴァリアシオン」のコーダは、爽快なスピートでリズムが冴えわたり、思わず踊り出したくなるよう。
全体を通して、この演奏が実際のバレエとして踊りやすいものなのかどうか、わからない。ただ、純粋な管弦楽曲として聴いた場合に、これはチャイコフスキーの数あるオーケストラ曲のなかに留まらず、近代西洋音楽という大きな枠でみても第1級の音楽であることを再認識させられた。後半に向かうにつれて、ぐいぐいと迫力と臨場感と厚みを増していくドラティの演奏はすばらしい。
ドラティはチャイコフスキーの三大バレエのうち、ふたつをコンセルトヘボウ管弦楽団と全曲録音を成したわけだが、「白鳥の湖」を残さなかったことがつくづく惜しまれる。
テオ・オロフ(Vn)
ジャン・デクロース(Vc)
1979年5月、1980年6月、1981年1月、アムステルダムでの録音。
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ドラティの「眠りの森の美女」は最初LP3枚組で発売されたときは7000円を超える価格で、指をくわえてみているのみでしたが、CD時代になってしばらくしてからようやく聴くことができました。
タワーで現役盤ですか、それはなによりだと思います。
彼のストラヴィンスキーもよいですね。
そう、「白鳥の湖」を遺してくれなかったことは、返す返すも残念です。