ランチベリー指揮フィルハーモニア管弦楽団の演奏で、チャイコフスキーの「眠りの森の美女」全曲を聴く(1981年、ロンドン、アビイ・ロード・スタジオでの録音)。
ランチベリーは、メトロポリタン・バレエと英国王立バレエを長年こなした叩き上げの指揮者である。そんな彼がロンドンのオーケストラを振ったチャイコフスキーが、悪かろうはずがない(これは、以前の「くるみ割り人形」の紹介文と同じデス)。
ランチベリーは、ここでもテンポは全体を通して中庸。CD2枚でおよそ150分。ということは慣例的なカットを実行している。ちなみに、ボニング指揮ナショナル・フィルの演奏は3時間を超える。普段演奏されない小曲を掬いあげて盛り込んでいる、愛情に溢れた演奏である。
プロローグの「アダージョ」はとても丁寧な演奏、他の演奏に比べて繊細さが光る。6つの「ヴァリアシオン」は闊達。リズム感が良いし、メリハリもきいている。「フィナーレ」は変化が大きく劇的。マッシヴな音が腹に響く。
1幕に入っても勢いはとどまるところを知らない。「シーン5」はフィルハーモニア管弦楽団の華やかで力強いアンサンブルを堪能できるし、有名な「ワルツ」はお約束通り、流麗にして豪奢。「薔薇のアダージョ」は、ティンパニの楔と終盤のテンポの変化が効果的。
2幕も好調。「目隠し鬼ごっこ」はスピードが心地よい。「シーン14」、強弱のつけかたが堂に入っている。「パ・ダクション」は弦楽アンサンブルが難しい曲(セッション録音なのに崩壊している演奏がある)だが、難なくこなしている。最後の「オーロラ姫の目覚め」におけるオーケストラの冴えは感動的。
3幕はいよいよ大詰め。色彩が明るくなる。「グラン・ポロネーズ」は華麗にして威風堂々。「パ・ドゥ・カトル」と「グラン・パ・ド・ドゥ・クラシック」は、舞台で観たらタマらん場面。宝石の妖精たちや、デジレ王子、オーロラ姫が入れ替わり立ち替わり、煌びやかに舞うのを想像するのは楽しい。「全員のコーダ」でお話は最高潮になる。
このディスクは、プティパにより初演時カットされた曲が収録されているいっぽう、別のカットがあるようだ。もちろん、鑑賞に問題はない。
こうして通して聴くと、チャイコフスキーの管弦楽法は、ベルリオーズやワーグナーとはまた違ってユニークなもので、他にかけがいのない、第1級のものだと思う。
クリストファー・ウォレン=グリーン(ヴァイオリン)
アンドリュー・シュルマン(チェロ)
屋根の上のパーティ。
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