中崎タツヤの「もたない男」を読む。
著者は漫画「じみへん」の作者。
週刊漫画は、社会人になってからもしばらく読み続けていたが、いつのころからかやめた。少年マガジンとビッグコミック・スピリッツを愛読していた。「じみへん」は当時から連載しており、いままだ続いているらしい。
「じみへん」は、いかにも私小説風な漫画であり、作者は一風変わった人なのだろうとつらつら思っていたが、この本を読んで確信した。
新しいものを買うことは好きだけれど、捨てるのはもっと好き。これは、なんともラディカルな断捨離。
冒頭に著者の仕事部屋の写真が掲載されている。机以外は、なにもない。押入れのなかにはガスレンジのみ。これはもともとあったもので、自分のものではないから捨てられないだけ。けれども隙があれば捨てようと目論む。
キッチンには当然なにも置いていない。仕事用の椅子には背もたれがない。無駄だから。時計もない。エアコンのリモコンで時間がわかるからだ。
本を買うときは、紙袋やブックカバーをもらわない。これはわかる。さらに彼は、カバーと帯もいらないと思っている。だが、店の人にはなかなか言い出せない。本屋さんは、きっとカバーと帯も含めて本を愛しているからだと想像するから。そのへんは優しい。
髪型についても、ウェーブやパーマがかかっている人をみると、イライラしてまっすぐになおしたくなる。
最後に、彼の名言を。
「キャバクラのおねえさんの盛り髪は本当に無駄です」。
ネトピル指揮プラハ交響楽団の演奏で、スメタナの「わが祖国」を聴く。
これは元気な演奏だ。精緻さよりも勢い重視。近頃は録り直しOKの名ばかりライヴ録音が多くまかり通っているが、このディスクは臨場感たっぷりで、実際に会場に座っているかのようだ。
トマーシュ・ネトピルという指揮者を初めて聴いた。彼はチェコでヴァイオリンと指揮を学び、2002年のショルティ指揮者コンクールで優勝。その後「プラハの春」音楽祭で指揮者デビューを果たした。
2009年からプラハ歌劇場の音楽監督に就任しており、チェコの新世代を代表する指揮者のひとりとされている。
編成は、ヴァイオリンの対抗配置。
「高い城」ではキザミが両方から聴こえてくるところあたり効果的であり面白い。右奥のチェロも比較的よく聴こえる。
この配置が最も生きた曲は「ボヘミアの森と草原から」か。ヴァイオリンの旋律が左から右へと流れてくるところなど、とても幽玄であり効果が際立つ。
全曲を通じて、シンバルとトライアングルは妙に生々しい。いかにも加工されていない感じ。
「ターボル」のオーボエ、とても清冽。件のホルンは素朴な音。わずかにヴィブラートをかけているので、ほのかに甘い。そのあとに続く行進曲は高揚感たっぷり。背中が痺れる。会場で聴いたならば、泣くだろう。
この演奏は最初に書いたとおり、荒削りではあるものの、それを補って余りある躍動感とみずみずしい生命力に満ちている。
この曲に関しては、クーベリック(ボストン交響楽団あるいはチェコ・フィル)とスメターチェク/チェコ・フィルのものを最近気に入っているが、ネトピル盤もじゅうぶんに魅力的だ。前者が落ち着いた大人の佇まいを聴かせてくれるのに対し、ネトピルは豊かな感性をおしみなく広げて、祖国への愛を歌い上げる。忘れがたいディスクになりそう。
2008年10月28日、プラハ、スメタナ・ホールでのライヴ録音。
休憩。
重版できました。
「ぶらあぼ」4月号に掲載されました!PR