ショパン曲集 マウリツィオ・ポリーニ(Pf)神田川。桜の季節以外は味もそっけもない。
神楽坂上。日曜日は歩行者天国になっている。この街の魅力は裏路地だが、多すぎてなにがどこにあるのかよくわからない。
ポリーニのショパン「ピアノソナタ2番」を聴く。
この曲をわりといろいろな演奏で聴いてきたが、もっとも好きな演奏はポリーニの最初の録音である。
冴えわたるテクニックにはキレがあり、それがピンと張りつめたような緊張感をもたらせている。ゾクゾクするような透明感がある。
24年ぶりとなる、この新盤はどうだろうか。一抹の不安を感じつつ聴いてみた。
テンポはこころもち旧盤よりもゆっくり。鋭さはすっかりと影をひそめていて、おおらかな、広がりのあるピアノといえる。スケールの幅は大きくなった。
その代わり失ったものは少なくない、とみる。抜き身の白刃を突き立てているような旧盤の、のっぴきならないスタイルは、捨てるにはあまりにももったいない。
加齢とともに失われた技巧をどう補填するかは、どのピアニストにとっても大きな課題だと思う。それをどう克服するか、ひとそれぞれであり、うまくいったケースもあれば、失敗した人だっている。ポリーニは特に技巧という側面からみられていた(というか私がみていた)から、それをどう超克するのかとても興味深いのだ。おりにふれて、聴いていきたいピアニストである。
結論を言うと、ポリーニはこの曲に関しては、80年代に録音した演奏のほうが魅力が大きいと思う。
ただ、最終楽章は深い。こんなにじっくりと、丹念にこの音楽を弾いているのをほかに聴いたことがない。
2008年3月、ミュンヘンでの録音。
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