ショパン 「夜想曲」「前奏曲」 サンソン・フランソワショパンの前奏曲。このフランソワの演奏だと、1曲あたり最短で31秒、最長で4分31秒。
全曲のうち、19曲は2分以内に収まってしまう。この短さが儚い。
ところで、サンソン・フランソワはホンモノのアル中だったらしい。ショパン弾きがアル中なのだ。ステキである。
自伝では、こう語っている。「私は自分の快楽のためだけに生きる。誰にも頼らない。孤独だからだ」。
いい。
ショパン弾きはこうでなければいけないなあ。偏見だけど。
彼の弾く「ワルツ」は、泥酔したときの陶酔感がこってり濃厚だけれど、この「前奏曲」は程よい酩酊状態で、色濃いロマンを影のようにちらつかせる。ときおり、酔っ払い特有の厳しい突っ込みがあって、ハッとさせられるところもある。
これだから酔っ払いは油断がならない。
フランソワのピアノは、音色的にはわりと単調といっていいものだけど、細かくテンポを揺らせるところから独特な雰囲気を醸し出している。
同じショパン弾きでも、リパッティやコルトーと比べても憂鬱さは濃く、アルゲリッチほど明快ではない。
疲れた中年男の優柔不断さがにじみ出ている演奏といえる。これを聴くと、共感と嫌悪感が入りまざった、なんともいえないやるせなさを感じるのだ。
録音は、厚みがなく良好とはいえない。
1959年、パリでの録音。
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