シューマン「詩人の恋」 フィッシャー・ディースカウ(Br) エッシェンバッハ(Pf)フィッシャー・ディーウカウが亡くなった。享年86歳。
引退してしばらくたっていたせいか、新聞の記事は思いのほか小さかった。
20世紀を代表する歌手の冥福を祈るとともに、5月なので、シューマンを聴く。
脂の乗りきった声を自在にコントロールしていていて、じつに知的な演奏だ。それは多感すぎる青年の激情というよりは、色恋から少し距離を置いて冷静に自分を見つめた演奏と言える。そんな知的なアプローチから、じわじわとシューマンの霊感が漂ってくるあたり、やはりこれはただならぬ歌である。
エッシェンバッハの、リリカルな、それでいて微妙なタメのあるピアノがまたいい。
40代のオヤジが聴いて涙を流しても許される曲であり、歌である。
グスングスン。
今思うと、ディースカウの声そのものの魅力と歌いまわしの技術の融合がもっともうまくいっていたのは、60年代から70年代にかけてだったのじゃないかと思う。ムーアとのシューベルトしかり、バレンボイムとの「冬の旅」しかり、このシューマンしかり。
90年代にサントリー・ホールで聴いたハイネ曲集(「白鳥の歌」からの抜粋と「詩人の恋」)は確かに素晴らしかった。素晴らしかったけれど、やっぱり声の疲労を感じないわけにはいかなくて、そのぶんを顔の表情を含めたパフォーマンスでカバーしていたと、今となっては思う。
冥土の土産になることは間違いないけど。
彼が残してくれた星の数ほどもある録音は、一生かかってもすべてを聴ききれないかもしれない。けれども、素晴らしい歌が残されていることを知っているだけで、なんだか安心してしまうのだ。
感謝!
1974年の録音。
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