メンデルスゾーン「ヴァイオリン協奏曲」 ハーン(Vn) ウルフ指揮オスロ・フィル白石一文の「永遠のとなり」を読む。
これは、東京に就職してうつ病にかかり、故郷の福岡に戻って療養している男と、肺がんに罹りつつ結婚と離婚を繰り返す男との交流を描いた小説。
とても印象的なくだりがある。うつ病に罹った主人公の独白である。
「私は、私という人間のことが本当に嫌いだったのである。そう気づいた瞬間、何だそうだったのか、とすべてが了解できる気がした。四十七年もの長きにわたって嫌いな人間と一緒に生きてくれば、誰だって心に陰鬱な翳りを生じさせてしまうのはむしろ、当然ではないか」。
これは、うつという病気の、もっとも大きな原因というべき事象なのではないか。
身につまされた。
ヒラリー・ハーンが弾くメンデルスゾーンのバイオリン協奏曲ホ短調を聴く。
この人の評判はかねて聞いていたが、実際に演奏を聴くのは初めてかもしれない。
結論から言うと、これはメンコンの録音のなかでも、特にいい部類に入る演奏じゃないかと思う。
ことに素晴らしいのは、1楽章。
絹のようにキラキラとした輝きのある音がすうっと伸びる。要所要所でさりげなく散りばめられる装飾音。天空を舞うように煌びやかであって、かつ知的さを感じるヴァイオリンである。
その味わいは、ミルシテインが演奏したメンコンの最後の録音に似ているところがあるけれども、音そのものはこちらのほうがイキがいいかも。
2,3楽章も悪くない。全体的にはいくぶん速めのテンポでもって、スッキリと弾ききっている。
いいヴァイオリニストである。
ウルフが指揮をするオケは、決して器用なものではないが、誠実な感じがして後味がいい。
2002年4月、オスロでの録音。
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