モーリス・ジャンドロン(Vc) アンセルメ指揮スイス・ロマンド管弦楽団渡辺淳一の「鈍感力」を読む。
少し前にベストセラーになった本が文庫化されたので読んでみたが、あまり面白くなかった。
「会社で生き抜くために」という章を読んでみると、こうある。
「サラリーマンが毎日通い、仕事をする場所といえば会社。ここでも鈍感力は欠かせません。」
対象となるのは、甘えた声と強い香水をつけた女や、いつも汗臭い奴、絶えず貧乏ゆすりをするヒト、書類をめくるとき指先に唾をつける人、弁当を食べるときくちゃくちゃと音をたてるひと。
なるほど、仕事には直接関係ないかもしれないが、一日中会社にいればこれはなかなか気にかかる問題かもしれない。
で、著者はどのような回答を教えてくれるかと言うと、「さまざまな不快さを無視して、明るくおおらかに生きていけるかどうか。こうした鈍感力を身につけた人だけが、集団のなかで逞しく勝ち残っていけるのです。」
この本は、こうしたオチを用意した17つの章から成っている。立ち読みすれば15分ほどで読み終えられそうだし、読んだそばから内容を忘れ去ることのできる小気味良い浅さは、齋藤孝にも引けをとらないだろう。鈍感力を縦横に駆使しての執筆ぶりがうかがえる。
この作家は小説のほうがいいようだ。
シューマンのチェロ協奏曲を今まであまり好んで聴いてこなかった。ロストロポーヴィチ/バーンスタインや、マイスキー/バーンスタインの演奏をときどき聴いても、いまひとつピンとくるものがなかったのだ。
このCDはそもそもシューマンの交響曲を聴きたくて買ったものなので、ジャンドロンの協奏曲はオマケのようについてきた。
だから、この演奏を聴くことができたのはラッキーと言える。この演奏で、この曲のイメージをだいぶつかむことができた。
演奏そのものはオーソドックスなものであるが、チェロの鳴りがいいようである。クッキリと明確な線を描きつつ、音は厚い。音の出し方が毅然としていていくぶん直線的だから、逆にシューマンのあいまいさが浮かび上がってくるようだ。
アンセルメの指揮も明快で、聴こえてくる音が多い。楽譜を読みながら聴いているわけじゃないけど、書いてある音を注意深く細大漏らさず引き出しているのではないかと想像する。
そういった両者の采配から、じつに見通しの良い透明度の高い合奏となっている。
シューマンの霊感というものは、こういう演奏からむしろ多く放射されるようだ。晩年の狂気じみた感性を、しなやかに端的に描いた名演奏だと思う。
1953年11月、ジュネーヴ、ヴィクトリア・ホールでの録音。
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読んだことがあるのは、小説では昔に日経夕刊に連載していたエロ小説と「遠き落日」、それとエッセイをいくつかくらいですが、野口英世を扱った「遠き~」はすばらしいものでした。
ジャンドロンのこのシューマン、チェロの音がひきたっていて、モノラルであることを忘れるくらいいい音です。
エロクアンスのアンセルメ録音はみのがせませんねえ。