ヴィルヘルム・ケンプのピアノで、シューマンの「交響練習曲」を聴きました(1972年2月、ハノーファー、ベートーヴェン・ザールでの録音)。
この曲、Wikipediaによれば「ゴルトベルク変奏曲」、「ディアベリ変奏曲」、「ヘンデルの主題による変奏曲とフーガ」とともにピアノによる変奏曲の最高峰に位置するとされています。まあ、そのあたりは余興だから気にする必要はないとしても、この作品は素晴らしい。
曲名はなんとも堅苦しいものの、全編がシューマンらしい甘酸っぱいメランコリックな味を醸し出しており、かねてから好きな曲です。
ケンプのピアノはじつに堅実。いくぶん速めのテンポはがっちりと揺るぎなく、音色は厚みのある低音から煌びやかな高音に至るまで瑠璃色に輝いている。ニュアンスづけも堂に入っています。
ピアノ曲にしても声楽曲にしても交響曲にしても、あまりいじらない演奏だからこそ、シューマンの幻想味は色濃く立ち上る。いままで、そう聴いてきました。
この演奏には遺作が含まれていません。だからか、全体を通して聴くと構成に隙はなく「Sinfonische」と冠した意義は伊達ではないかなと。
ただやはり、遺作の、あの5番を聴きたい気持ちは拭えない。もし構成に破たんがあろうとも。
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