シューベルト ピアノ・ソナタ17番 アンドラーシュ・シフ(Pf)色川武大の「うらおもて人生録」を読む。
これは若者向きに書かれたエッセイであると思われるが、ワタシのような中年にもたくさんの示唆を与えてくれる。
「空襲で炎に包まれる、なんてことは、皆で一緒に不幸になる式のことで、孤立にくらべれば、リクリエーションみたいな感じさえするくらいなんだ」。
これは著者の戦争体験からの話。みんなが自分と同じ境遇であれば、それは孤立ではない。孤立は日常生活のなかにいつも潜んでいる。
シフのピアノでシューベルトのピアノ・ソナタ17番を聴く。
シフは実演を一祖聴いたことがあるけれど、その時は縦横無尽にテンポを変化させて抑揚の激しい演奏をしたという記憶がある。「ハンマー・クラヴィーア・ソナタ」だった。
そういうイメージが強いので、ここでも変化球を混ぜてくると予想したのだが、少しはずれた。
強弱の変化は微妙につけているものの、テンポは基本的には直球で押している。とてもオーソドックスで、自然体のピアノだ。
だからなのかわからないが、この演奏からは、シューベルト独特の孤独の匂いよりも、友人たちと談笑しているような、そんな暖かい手触りを感じたのだった。
1992年11月、ウイーン、ムジークフェライン・ブラームス・ザールでの録音。
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