アンナー・ビルスマのチェロ・ピッコロ、ジョス・ファン・インマゼールのフォルテピアノで、シューベルトの「アルペジョーネ・ソナタ」を聴きました(1997年6月、オランダ、ハーレム教会での録音)。
「シューベルトは絞首台へと向かっている男で、人生が比較にならないほどどれほど美しく、そしてどんなにシンプルかを、友人に語ることをやめることができない」(アンナー・ビルスマ)。
絞首台に向かっているのは誰しもそうだけど、シューベルトの場合はその短さが破格だったわけで、にも関わらずこの曲や未完成交響曲、ヴァイオリンソナタ、数えきれない歌曲の数々、後期のピアノソナタ群、五重奏、八重奏などという、この世のものには違いないけれど、浮世とは隔絶したかのように美しい音楽を書き上げた。
彼がもし60まで生きていたら、という話は仮説にもならないけれど、シューベルトが31歳で旅立ったということは、より彼の音楽を愛おしく感じる事実に他ならないのじゃないかな。
さて、ここでビルスマが使っている楽器はチェロ・ピッコロ。普通のチェロより小ぶりな5弦楽器とのこと。シューベルトが想定した「アルペジョーネ」は不出来楽器であることから、今では使われることはないらしい。こんな名曲を生み出したのに、なんだか気の毒な気もする。
ピッコロの音は軽やか。フォルテピアノとの合わせなのでピッチが低いのかもしれないけど、私の耳ではわからない。
ビルスマは、絹のような伸びと王侯貴族のような気品を併せ持った、見事な演奏を聴かせます。
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