シェーンベルク ピアノ作品集 マウリツィオ・ポリーニ(Pf)パコ・ムーロ(野田恭子訳)の「なぜ、エグゼクティブは大雨でもスコアが乱れないのか」を読む。
私はエグゼクティブではないしゴルフもやらないし大雨でもたぶんない。なのにこの本を手に取ったのは、題名と内容とが微妙に違うのじゃないかと思ったのが一因なのだが、果たしてその通りであった。
エグゼクティブらしき人物は登場するものの、ゴルフや大雨についての記述は特にない。また、ビジネスに関することも目新しい考えは見当たらず、ごく普通のあたりまえのことが書いてある。これも予想通りなのだが、それがわかっていて読んでしまうということは、うすぼんやりとわかっていることを再確認したいがためなのだろうな。
「私が経営する会社では、みな、よくこう言っている。
『来ない人は、いない人。電話をくれない人もいない人』
こう言われると、誰もが気づくはずである。市場がどうだとか、商品がどうだとかは問題ではない」。
私はまた営業でもないのだが、こういう文章を読むと、なるほどそうなのだろうなと無責任に納得するのである。そんな他人事のような態度を取るあたり、これは現実逃避のひとつなのかもしれない。
そう、資格試験のある10月を前にして、肝心の勉強がいっこうに進まないのだ。やる気がまったく起きない。問題集もまっさらだ。
その反面、参考書以外の本をむしょうに読みたくなる。問題集を解くくらいなら「方法序説」を読みたいくらいである。
これじゃ、期末試験を一週間後に控えた中学生だな。
「5つのピアノ曲」(作品23)は、1920年から1923年にかけて作曲された。
シェーンベルクの10年間に渡る沈黙期間を破る最初の作品である。10年の間、無調から12音音楽への移行の探索を続け、この作品で12音技法が確立したと船山隆は語っている。
無調と12音音楽、聴いただけでは違いがわからない。
このシェーンベルクはポリーニの評価を揺るぎないものにしたレコードのひとつ。とっつきやすいとはいえないシェーンベルクのピアノ曲を世に広めたという価値も高い。「シェーンベルクのピアノ」=「ポリーニ」という図式は30年以上に渡って固まっているのじゃないだろうか。
かくいう私も、これらのピアノ曲の演奏はポリーニ以外に聴いたことがない。他のピアニストの演奏をいまひとつ聴く気になれないのは、ポリーニのキンキンに冷えたピアノの響きがあってこその曲だと思うことと、それほど面白い曲じゃないからもういいやといったある種の諦めからきているようだ。
全曲で10分程度の長さであり、それぞれ緩急おりまぜた変化があり、打楽器としてのピアノの音響を楽しめる。構造うんぬんよりも冴えたピアノの響きのおいしさ。
1974年5月、ミュンヘンでの録音。
PR